2005年1月16日(日)「しんぶん赤旗」
NHK従軍慰安婦番組への 政治介入問題
「このまま出したら 皆さんとはお別れ」 教養番組部長
まるで違う番組に
元「ドキュメンタリージャパン」 坂上香さん証言
「だれも反論できない。論議もない。命令だけが下って…。まるで戒厳令下だった」―。NHK従軍慰安婦番組への政治介入問題で、番組制作会社「ドキュメンタリージャパン」(DJ)の担当ディレクターとして制作現場を体験した坂上香さん(映像ジャーナリスト、京都文教大学助教授)が、番組制作時から異常だった当時の様子を、本紙に生々しく語りました。
番組は、NHK教養番組部が、関連会社「NHKエンタープライズ21」(NEP21)を通じてDJに制作依頼したもの。
二〇〇〇年九月、DJは、坂上さんが提出した企画書をもとに、「問われる戦時性暴力」(二回目)と「今も続く戦時性暴力」(三回目)の制作を担当。坂上さんは三回目のディレクターを務めました。
自民党の安倍晋三、中川昭一両衆院議員らが介入したとされる二〇〇一年一月二十九日。それ以前から制作現場の異常は始まっていました。
「女性国際戦犯法廷」が中心に扱われていた「問われる戦時性暴力」の試写は、一月十九日と二十四日に異例の「教養番組部長試写」として行われました。
粗編(素材テープをつないだだけ)段階で上層部が見る試写は、通常、特別番組や大型企画では行われますが、日常的な番組では異例です。
坂上さんは事件の半年前、「医療過誤」をテーマに番組を制作しましたが試写の話などまったくありませんでした。
「部長試写」前の、教養部、NEP21、DJの担当者による、三者合同試写では、大きな異論は出されず作業は順調でした。
「お前らともだ」
十九日の「部長試写」で部長は、「法廷との距離が近すぎる」「企画と違う」「お前らにはめられた」「このままではアウトだ」などと発言。「法廷」の主催団体・「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク(VAWW―NETジャパン)代表のインタビューと「天皇有罪」の発表シーンは、番組制作局長と部長の「通達」で削除されました。
二十四日、二回目の「部長試写」では、部長のほかにNHK内部の年配の男性が、自己紹介もないまま出席していました。
性暴力の加害者の証言に「違和感あるな」「いろんなところで同じこといっている」などと、証言の信ぴょう性に疑問を投げかけました。
「そうだろう、うさんくさいよな」。部長と男性は、坂上さんらに背中を向け顔すら見せませんでした。
坂上さんは、「証言はいらないんじゃないの」といった部長の発言に思わず反論しました。
証言を聴き行動を起こすことが、番組の要であることを意見しました。
背中を向けていた部長が「このまま出したらみなさんとはお別れだ。二度と仕事はしない」と言い放ちました。NEP21や教養番組部の人間にも「お前らともだ」。
坂上さんは「なにか時代劇でも見ているようで…。屈辱的だった」といいます。
二十四日以降、制作はDJの手を離れ主導権は完全にNHKが握ることになります。
なにか別の力が
同年一月初めごろ、放映中止を求める右翼団体の決起集会ビラが回覧されるようになりました。
教養部メンバーの自宅に右翼の脅迫めいた嫌がらせがあったことも耳にしました。
坂上さんは「たんなる自主規制ではない。なにか別の力が働いている」と感じていました。
それでも二十八日には番組はほぼ完成したといわれています。
しかし、一月三十日の放送を見て坂上さんはがくぜんとします。「局の手に渡ってしまった以上、かなり変えられてしまうであろうことは予測できたが、まるで違う番組になっていた」
今回発覚した政治介入について「ふに落ちる」といいます。
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