2005年1月14日(金)「しんぶん赤旗」

4年悩み「真実を」

NHKチーフプロデューサー

「不利益ある。でも…」


 「でもやはり真実を述べる義務がある」――。一転、顔を紅潮させ、涙をぬぐって振り絞るように言い切った長井暁さん(42)。番組への政治介入を告発したNHKの現役チーフ・プロデューサーです。十三日、NHKではなく都内のホテルを選んで記者会見にのぞんだ長井さん。言葉と態度にジャーナリストの良心がにじみ出ていました。

 告発の「不利益」について聞かれると「不利益を被るでしょう。私もサラリーマン。家族を路頭に迷わすわけにはいかない。この四年間非常に悩んで…」と声を詰まらせ、ハンカチで涙をぬぐいました。

 それでも長井さんは「報道の現場では政府に都合が悪い番組の企画は出しても通らないという委縮した空気がまん延している。海老沢体制の最も大きな問題は、政治介入を恒常化させた点にある」と会見にのぞんだ決意を語ります。

 改ざんされた慰安婦問題の番組。当時、安倍晋三官房副長官、中川昭一議員に幹部が呼ばれたあと、長井さんは、番組制作局長室に行きました。入るなり伊東律子局長からいきなり「この時期にNHKは政治とたたかえないのよ」と切り出されたといいます。「政治から相当厳しい批判がきていると思った」と感じました。数日後に自民党総務会でNHK予算の説明が予定されていました。

 放送日の二〇〇一年一月三十日、それまでの改ざんにくわえ、元慰安婦の証言を三カ所カットすることが指示されました。現場の部長はじめ全員が反対し、松尾武放送総局長に会うと「全責任は私がとる。指示どおりに進めてほしい」といわれました。

 「あのとき徹底的に反対すべきだった」と悔しさをにじませる長井さん。最後までたたかったら三人のディレクターも一緒に処分されるとの思いがありました。長井さんは政治家の介入にふれながら、「海老沢会長は、すべて了解していたと思う。経緯は逐一、報告されていた」と語りました。

 長井さん自身、政界から放送現場に介入された別の体験があります。

 〇一年九月十六日放送された「狂牛病。なぜ感染は拡大されたのか」。イギリス政府の報告書から、狂牛病の感染源が肉骨粉にあり、日本でも発生する恐れがあると初めて伝えました。

 大きな反響があり翌週再放送される予定でした。しかし、自民党農林部会で批判が噴出。「政府の対策も入れたほうがよい」との報道局長の意見で再放送はなくなりました。

 長井さんの告発は政治権力とジャーナリズムの距離という根本問題を提示しています。



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