2005年1月14日(金)「しんぶん赤旗」

従軍慰安婦番組問題

侵略の歴史わい曲する介入

政府見解、国連勧告にも逆行


 「従軍慰安婦」問題をとりあげたNHK番組にたいする、自民党の安倍晋三幹事長代理と中川昭一経産相の政治介入。その重大さが、十三日のNHKチーフプロデューサーの告発でいっそう鮮明になりました。

政府の中枢から

 安倍、中川両氏の行為は、放送法第三条はもとより、検閲を禁じた憲法二一条第二項に違反する行為です。

 かつての侵略戦争で日本の軍部はNHKの放送に介入、事前検閲が横行しました。戦争遂行の最高司令部・大本営による「大本営発表」では、戦況の悪化をはじめ軍部に都合の悪いことはすべて隠され、真実が国民に知らされなかったことは歴史の教訓です。その反省から、戦後は憲法と放送法で表現の自由を保障し、検閲や外部からの干渉を禁じているのです。

かばう小泉首相

 政府・自民党による、放送への介入はベトナム戦争報道などをめぐり、これまでにも報じられてきました。しかし、今回の介入は、当時官房副長官という政府の中枢にあった安倍氏がNHK幹部に対して番組の内容変更を迫っている点できわめて重大です。

 ところが、小泉純一郎首相は十二日夜の会見で、政府として圧力をかけていないと弁明する一方で、「(NHKは)公正な報道を心がけてほしい」などとのべ、安倍氏らの行動を正当化しました。

 安倍氏は「(番組が)明確に偏った内容であることが分かり、私は、NHKがとりわけ求められている公正中立の立場で報道すべきではないかと指摘した」とコメントし、開き直っています。

 しかし、「従軍慰安婦」制度の責任を追及する民衆法廷をテーマにした番組が「偏っている」というのは、政府のこれまでの公式見解にも反するものです。

 政府は調査結果をもとに、旧日本軍と日本政府の関与を認め、一九九三年八月に「従軍慰安婦」被害者に謝罪し歴史の教訓として直視していくとの河野洋平官房長官談話を発表しました。昨年十二月には、細田博之官房長官が来日中の被害者と面会して「皆様の尊厳を大きく傷つけており、心から反省しおわびする」とのべ、政府の要人として初めて被害者に直接謝罪しました。

 また、一九九三年以来、国連人権委員会は「従軍慰安婦」問題を含む「女性に対する組織的な暴力と性的な奴隷行為」についての決議を採択。旧日本軍の行為などについて「教育課程の中で歴史的な事件の説明」をするとともに、「効果的な処罰や補償」を行うよう、日本政府に求めています。ILO(国際労働機関)も数回にわたって、謝罪と個人補償をするよう勧告しています。

 「偏向番組だ」との安倍、中川両氏の主張は、政府のこれまでの公式見解を否定し、歴史の事実をわい曲するものであるだけでなく、戦争犯罪を許さないという国際世論にも敵対するものです。

侵略戦争の美化

 安倍、中川両氏らの介入の背景には、歴史の事実をゆがめ、日本が引き起こした侵略戦争を美化しようとの執拗(しつよう)な流れがあります。

 これまでにも、自民党閣僚や議員から侵略戦争美化論が繰り返し主張されてきました。とりわけ、一九九七年「新しい歴史教科書をつくる会」が結成されると、安倍、中川両氏が中心的役割を果たしてきた「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」は、同「つくる会」などと連携し、文部科学省などへ圧力を強めていきました。

 今回の放送への政治介入は、侵略美化勢力が憲法や放送法までじゅうりんするなど、歴史のわい曲に狂奔していることを浮き彫りにしました。

 小山田春樹記者



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