2005年1月10日(月)「しんぶん赤旗」 横浜タイヤ脱落母子死傷事故から3年三菱ふそう 謝罪しつつ無罪主張利益優先に殺された命
横浜市で尊い母親の命を奪った三菱製大型車の欠陥によるタイヤ脱落事故から十日で三年を迎えます。三菱ふそうは、遺族へ謝罪しつつ刑事裁判では「無罪」を主張。制裁的慰謝料をめぐる民事裁判でも和解に至っていません。同社は十日を「安全の日」として再発防止を誓っていますが「本当に反省しているのか」。遺族の怒りはおさまりません。遠藤寿人記者 遺族 制裁的慰謝料を求める「紫穂の死を粗末に扱うことは許しません」――。岡本紫穂さんの母、増田陽子さん(55)は、民事裁判(横浜地裁)で同社などに「制裁的慰謝料」一億円を含む、一億六千五百万円の損害賠償を求めています。 「制裁的慰謝料」は悪質な加害行為の再発を防ぐ目的で、アメリカで広く認められているものです。容認されれば日本で初のケースになります。 三菱製大型車のタイヤの車輪と車軸をつなぐ部品ハブの破損事故は、横浜の事故以前にも三十九件起きていました。 増田さん側は、三菱は放置しておけば生命に被害がおよぶ事故の発生を予見しながら、企業利益の追求に走り、多額の費用を要するリコール(回収・無償修理)の対策をとらなかった故意による被害だと指摘。 事故の発生を未然に防ぐために(1)警告書の送付や新聞、テレビで消費者への注意を喚起する(2)交換部品を無償で供給し修理を奨励、欠陥を除去する――などの具体策をとらず、製造物責任(PL)法の「指示・警告上の欠陥」があったと訴えています。 増田さんは、陳述書で「大きな会社にとったら、人一人の命なんてどうでもいいと考えているとしか思えません。紫穂は欠陥を知ってもリコールしなかった三菱の人たちに殺されたも同じです」と怒りをあらわにしています。 三菱側は「制裁的慰謝料は、日本では認められていない」としています。 精神的打撃への賠償要求は当然小林秀之一橋大学教授(製造物責任法)の話 三菱は欠陥を隠し、消費者を危険にさらしながら利得を得てきました。通常の損害賠償は、被害者が被った実損害分を償うものですが、アメリカではそれに加えて悪質な加害行為を抑制するために懲罰的損害賠償が認められています。七十年代に起きたアメリカのフォード製「ピント」の火災事故では、三百五十億円(当時)の懲罰的損害賠償の支払いが認められました。アイアコッカ社長は日本車の進出を警戒し経費節約のため、ガソリンタンクが危険な位置にあってもいいと決定したとされています。日本では懲罰的損害賠償を認めた例はありませんが、通常の慰謝料の三倍にあたる「制裁的慰謝料」を、被害者側が被った精神的ショックに対し、要求することは十分な説得力を持つと考えます。 タイヤ脱落母子死傷事故 二〇〇二年一月十日午後、横浜市瀬谷区の中原街道で三菱製大型車「ザ・グレート」のタイヤが脱落。歩道にいた岡本紫穂=当時二十九歳=さん親子を背後から襲いました。紫穂さんは死亡。ベビーカーにいた二男=同一歳=と手を引いていた長男=同四歳=は軽傷を負いました。 三菱はタイヤが外れた原因をユーザーの整備不良と主張してきましたが、昨年三月、一転して設計上のミスによる強度不足を認め国土交通省にリコール(回収・無償修理)を届け出ました。昨年九月、宇佐美隆前会長らを被告とする道路運送車両法違反(虚偽報告)事件が横浜簡裁で、村川洋元市場品質部長を被告とする業務上過失致死傷事件が横浜地裁で、それぞれ刑事裁判の審理が始まりました。 |