2005年1月8日(土)「しんぶん赤旗」 東京・葛飾の事件表現の自由の優越性 裁判も認めたのにビラ配布逮捕 この不当東京・葛飾区のマンションで日本共産党のビラを配布していた男性が昨年十二月に不当逮捕され、現在も勾留されている事件が「一政党の問題ではない」(市民団体)と注目を集めています。「『明日はわが身』の危険はないのか」(四日付「東京」)とも報道されています。あらためて事件を振り返ると――。
男性がビラを配布したマンションは葛飾区のJR亀有駅から徒歩八分ほどの道路沿い。七階建てで、オートロックはなく、かなりの出入りがあります。マンション内にはビラにかかわる掲示が集合ポストのわきにあり、管理組合名で「チラシ・パンフレット等広告の投函(とうかん)」を禁じています。この掲示にかかわらず、広告ビラも多く配布されているのが実情です。 常識的な配り方逮捕された男性が配布したのは「広告」ではありません。日本共産党の「都議会報告」「区議団だより」「区民アンケート」と返信用封筒でした。これが「広告」という範囲にははいらないというのが通常の見方でしょう。 配り方も常識的で平穏なものでした。日中に静かに共用部分の廊下を歩いて、郵便受けに投函しただけ。やめるよう求めた住人には「入れてほしくないなら、入れません。何号室ですか」と住人の意思にこたえる対応をしました。 逮捕理由の「住居侵入」自体が成立していません。 男性に「やめろ」といってきた住人は、携帯電話で「PC(パトカーのこと)を使う」「ガラ(身柄)は押さえる」などの警察用語で警察に連絡しました。 やってきた警官が男性に「ちょっと事情を聞かせてほしい」といい、男性は同行しました。男性は亀有署で「私人による現行犯逮捕ですでに逮捕されている」と告げられて初めて、「逮捕」を知るという状態でした。 トラブルがあり、通報があったからといって、警察が即「逮捕」として身柄を拘束し、勾留、送検するなどというのはきわめて異常で、男性の弁護人は「警察による違法逮捕」(勾留理由開示公判での意見陳述)と指摘しています。 知る権利に応答
配布したのは公党の議会報告などで、政党支持にかかわらず住民の知る権利にこたえるものであった点は重要です。 東京・立川市での自衛隊官舎立ち入り事件の無罪判決は、「ビラの投函自体は表現の自由が保障する政治的活動で、民主主義社会の根幹をなすものとして…商業的宣伝ビラの投函に比して、いわゆる優越的地位が認められている」と指摘しました。そして「侵入」にあたるとしながら、「刑事罰に値する違法性はない」と判断しました。 こうした判断からすれば、男性の行為はいかなる意味でも刑事罰に値するものではありません。 男性は十数日も不当に勾留されつづけています。男性の勾留期限は十一日まで。その間に起訴・不起訴が決まる見込みです。「民主党、公明党のビラも入っている。なぜ共産党だけねらいうちなのか」という怒りの声も寄せられており、今後の運動が重要になっています。 各戸配布は民主主義の血流亜細亜大学法学部助教授 石埼学さん今回の逮捕は、東京・立川市の自衛隊官舎ビラ配布事件で無罪判決が出た直後のことだけに、あぜんとしました。 表現の自由は、憲法のさまざまな自由のなかでも、きわめて大事と考えられています。なぜかというと、もっとも権力によって侵害されやすいからです。 現にビラ配布で社会保険庁職員が逮捕された事件(国家公務員法弾圧事件)、立川の事件、そして今回の事件と、いまの政権を批判する政党やグループばかりをねらいうちにした逮捕が続きました。批判意見を含めて許容されるのが、表現の自由であり、民主主義であることをしっかりつかむ必要があります。 日本はすでに公の場所での表現活動がきびしく規制され、ほかの先進国に比べても表現活動がしづらい国になっています。そのなかで残されたビラの各戸配布は、とくに日本では民主主義の血流のように重要な手段です。ここに公権力が介入してくるのを許しては、民主主義社会の崩壊につながりかねません。 逮捕直前に出た立川事件にかんする東京地裁八王子支部判決は、どういうビラ配布なら住居侵入の罪にあたり罰を受けるか、ルールを明確にしようとした判決です。ビラを配るにあたり、無理に入っていったのか、住民の応対を求めたのか、以前に抗議を受けていたか…。過去の最高裁の判決もふまえたうえで判断基準を示し、そのうえで無罪判決を言い渡しています。警察は、そういう最新の明確なルールを無視して逮捕しており、まさに暴挙です。 さらに今回の逮捕がひどいのは、議会報告や区政に関するアンケートを配って逮捕されていることです。議会制民主主義の立場に立つ公党の有権者への議会活動報告を抑圧するということは、議会制民主主義への直接的抑圧を意味します。 警察にこのような暴挙をさせない世論の高まりが重要です。政党支持にかかわらず、一連の事件にもっともっと関心をもってほしいと思います。 |