日本共産党

2004年12月19日(日)「しんぶん赤旗」

ここが知りたい特集 京都議定書

温暖化とめる正念場


 米国の離脱で一時はひん死状態になった地球温暖化防止のための京都議定書が、来年二月に発効することが確定しました。六―十八日にはアルゼンチンの首都ブエノスアイレスで気候変動枠組み条約第十回締約国会議(COP10)が開かれ、温暖化の現状と今後の取り組みが議論されました。議定書で合意された二〇一二年までの温暖化ガス削減目標の達成が、いよいよ差し迫った課題となっています。

 岡崎衆史、坂口明記者



京都議定書 発効は歴史的一歩

 世界各地が今年、異常気象に襲われました。世界気象機関(WMO)の十五日の発表では、今年の世界の平均気温は一四・四度で、一八六一年以来で四番目に暑い年となりました。

 世界の保険会社の今年の保険料支払い額は、三百五十億ドルと過去最高になると予想されています。日本でも台風が十個も上陸し、二百人近くが死亡しました(一九五一年以降これまでで最多の年間上陸数は六個)。

 国際赤十字社・赤新月社連盟は十月二十八日発表の年次報告書で、「災害総数は増加しており、その一部は変動する気候に推し進められている」と述べ、異常気象と温暖化の関係に警鐘を鳴らしました。

 地球温暖化は、石油や石炭などの化石燃料の大量消費のため、二酸化炭素などの温暖化ガス(温室効果ガス)の大気中の濃度が上がることによって起きます。

 世界の科学者からなる「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)は、今後百年間に一・四度から五・八度気温が上がると予想。海面は九―八十八センチ上昇し、洪水、干ばつなど、さまざまな災害を引き起こすとしています。

 一九九七年に京都で採択された京都議定書は、人類を滅ぼしかねない温暖化を阻止するために世界各国の努力で合意に達した国際的な取り決めです。今年十一月にロシアが批准したことにより、来年二月十六日に発効することが決定しました。

 議定書は、温室効果ガスの排出削減を各国の自主的な努力に委ねるのでなく、二〇一二年までに先進国が一九九〇年比で5%削減することを義務付けています。国連のアナン事務総長は、議定書発効を「地球規模の真の脅威とたたかう世界の努力の歴史的一歩だ」と称賛しました。

 京都議定書の削減目標は温暖化防止の第一歩にすぎません。IPCCは、大気中の二酸化炭素の濃度を現状のままで安定させるには、温室効果ガス排出量を50―70%削減する必要があるとしています。

 世界の環境NGO(非政府組織)からなる気候行動ネットワーク(CAN)は「(先進国は)今世紀半ばまでに(九〇年比で)約80%の排出削減が必要」だと主張しています。

世界の流れ 米国脱落でも前進

 「単独行動主義に対する多国間協力主義の勝利だ」とのアサディ議長(イラン国連大使)の声に、会場から沸き起こる大きな拍手。米国や日本の妨害で死滅しかかった京都議定書を救済する大きな転機となった、二〇〇一年のボン会議の忘れ難い光景です。

 今年十一月のロシアの批准で発効が決まるまでの京都議定書の七年間は苦難の連続でした。

 京都での採択自体が、規制の骨抜きを求める米国の抵抗で難航。徹夜のギリギリの交渉の産物でした。〇一年に発足したブッシュ米政権は、その国際合意から離脱すると決定。世界を驚かせました。その後も、発効のカギを握ることとなった日本やロシアの姿勢で、発効確定に七年を要しました。

 それでも国際社会は、世界最強の国の離脱という異常事態にもかかわらず、人類の生存を脅かす温暖化を規制する第一歩を踏み出しました。

 米国のシンクタンク、ブルッキングズ研究所のパービス研究員は、「米国の同盟諸国がますます国際的課題を米国抜きで形成しつつあることを、京都議定書は示している」と指摘しています(インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙十五日付)。

 米国抜きでも国際法秩序を前進させる動きは、戦争犯罪を働いた個人を裁く初の国際裁判所である国際刑事裁判所が、米国の抵抗にもかかわらず昨年開設されたことにも現れています。

グラフ
遅れる日本 EUは本腰入れる

 「削減目標を義務づけられている締約国は目標を確実に達成する実効性ある政策と措置を直ちに策定、実施すべきである」―。京都議定書の来年発効が確実となった十一月五日、日本の環境NGO「地球環境と大気汚染を考える全国市民会議」(CASA)が声明を出しました。京都議定書の発効が決まった今、先進国が期限の一二年までの目標を達成できるかどうかが焦点となっています。しかし、先進国全体で一〇年までに九〇年比で約10%の排出増が予測されるなど厳しい状況です。

 日本の〇二年の温室効果ガス排出量は九〇年比で12・1%増にも達しています。6%削減の目標を達成するには18%削減しなければなりません。とりわけ、国内排出量の八割を占める企業、公共部門での削減を進めることが求められています。温暖化対策を「自主的なとりくみ」とする産業界に対し、政府は、社会的な責任を果たさせる必要があります。

 一方、欧州連合(EU)の〇二年の排出量は九〇年比で2・5%減です。EU各国は排出削減のための独自目標を定めるなどして、本格的に取り組んできました。

 〇二年に18・5%を削減したドイツでは、二〇二〇年までの二酸化炭素排出量を九〇年比45%削減する独自目標を設定。政府と産業界が協定を結び、一二年までに温室効果ガスを35%減らすことを取り決めました。

 〇二年に14・5%減らした英国は、五〇年までに二酸化炭素を九〇年比で60%削減する目標を設定しています。〇一年には、燃料や電力の使用量に応じて企業に課税する気候変動税を導入。同税は、企業が二酸化炭素排出削減などを進めるための協定を政府と結べば、減税措置がとられます。

孤立する米 「責任果たせ」の声

 京都議定書が決めた削減目標は第一段階にすぎません。二〇一三年以降の第二段階にどうするかは、これからの課題です。

 枠組み条約第十回締約国会議(COP10)では、第二段階の対策の枠組みを検討するセミナーを来年開催することが合意されました。

 議定書発効が決まったことにより、議定書から離脱した米国を批判し、復帰を求める声が改めて強まっています。

 京都会議で実質的な議長を務めたアルゼンチンのエストラーダ大使は、「米国は工業諸国の(温暖化ガス)排出の36%、全世界の25%に責任がある。奮闘するというなら100%(の削減)を目指すべきだ」と述べ、米国の責任を指摘しました。

 米国は、議定書で九〇年比7%削減する義務を負っていますが、〇二年時点で13・1%増加しています。

 イラク戦争では米国に全面協力した英国のブレア首相も、来年五月にも予想される総選挙で米国追随との批判をかわすため、温暖化防止を来年の最優先課題とし、米国との違いを印象づけようとしています。

 しかしCOP10に参加した米国代表は、京都議定書に復帰する意図がないと重ねて表明。一三年以降の第二段階の対策の検討は「極めて時期尚早」だとして否定しました。

 今後の対策に関しては、京都議定書で除外された国際航空・船舶などの運輸部門での削減も義務化し、規制をさらに強化すべきだとの主張がCOP作業部会で論議されています。他方で、議定書のように削減数値目標を義務化する方式はやめて自発的取り組みにゆだねるべきだとの主張も出ています。

 発展途上国による対策も含め、温暖化防止をめぐる国際的討論が改めて強まろうとしています。

地球温暖化防止への国際的な取り組み
1985年
10月
 
オーストリアのフィラハで気候変動に関する初の国際会議
1992年 5月
気候変動枠組み条約を採択
1992年6月
リオデジャネイロで地球サミット
1994年3月
枠組み条約発効
1995年3月
枠組み条約第1回締約国会議(COP1)をベルリンで開催
1997年12月
枠組み条約第3回締約国会議(COP3)を京都で開き、京都議定書を採択
2001年3月
米ブッシュ政権が京都議定書からの離脱を表明

7月
枠組み条約第6回締約国会議(COP6)再開会合をボンで開き、京都議定書の運用ルールで合意
2002年6月
日本が京都議定書を批准
8、9月
持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルクサミット)を開催 ブッシュ米大統領は参加せず
2004年11月
ロシアが京都議定書批准
2005年2月
京都議定書発効へ


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