2004年12月5日(日)「しんぶん赤旗」
独占禁止法を改定し、カルテル・談合の取り締まりを強化することは、多くの国民の願いです。ところが、幹部企業がカルテル・談合を繰り返してきた日本経団連は、政府が当初考えていた独占禁止法の改定案に「その場しのぎ」「ぬえ的(=あいまいで正体不明なさま)性格」と繰り返し非難。抑止効果を緩和させました。
金子豊弘記者
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もともと、違法なカルテル・談合がなければ課徴金はかかりません。ところが日本経団連の繰り返しの反対表明は、これまでの企業犯罪を今後も続けることが、さも前提のようです。
独占禁止法を運用する公正取引委員会は昨年から改定案を準備し四月には改定案概要を発表しました。カルテル・談合をおこなった企業に課す課徴金を現行よりも二倍程度引き上げ、算定期間も一年延期するとしていました。この案にたいし日本経団連は強く抵抗。「事業者に対する制裁を強化しさえすれば独禁法違反がなくなるとの考えのもとで、課徴金制度の強化を図るものである。このような短絡的な姿勢は、(略)容認できるものではない」(二〇〇四年四月十五日の意見)、「(課徴金引き上げの公取委の理由にたいして)『その場しのぎ的』な言い方」(六月二十五日のコメント)、「課徴金のぬえ的性格」(七月十三日の提言)と繰り返しました。
十年ぶりに組織的な企業献金を再開した日本経団連はカネの力をテコに政治への圧力を強めます。
自民党は五月、通常国会への法案提出を見送り、関係者との協議を続ける方針を打ち出しました。日本経団連は、自民党のこの態度を評価。企業献金の“政党通信簿”に「独占禁止法の改正案(閣法)の通常国会提出を見送り」(九月二十二日の「第二次政策評価」)と特記しました。
公正取引委員会の元事務総長の糸田省吾氏は、「天下の大企業が一方でコンプライアンス(法令順守)を叫びながら他方で談合をおこなっているのは、まったく解せない。要すれば利益になるものなら談合をも辞さないという企業行動をとっているのであり、そういった企業を構成員とする経団連の意見は、迫力に欠けることおびただしい」(『時評』〇四年六月号)と批判しています。
臨時国会(三日閉会)に提出された政府案は、現行よりも課徴金率が引き上げられるなど犯罪防止措置は強化されます。しかし、当初12%程度(大企業製造業)に引き上げるとしていた課徴金の率は10%に値切られました。一年間延長しようとした算定期間も三年に据え置き。公正取引委員会の竹島一彦委員長は、「建設団体などから反対の意見があった。関係各方面の調整の結果」としています。
一方、国会に提出された民主党案はどうか。「経団連が強力に根回しをした」(関係者)といわれ、専門家からも「政府案より経団連寄り」と指摘されています。独禁法は、重大な違反行為の場合、刑事罰としての罰金と行政処分としての課徴金を両方をかす仕組みです。政府案は、課徴金から罰金の半額を差し引くのにたいして、民主党案では全額を控除します。法人にたいする制裁は課徴金に一本化し、刑事罰は個人のみにすることを求めている日本経団連の提案に通じます。また、民主党案は企業内に法令順守体制があれば、課徴金を最大三割減額することも盛り込んでいます。
十一月二十六日に衆院経済産業委員会に参考人として出席した日本経団連の諸石光熙経済法規委員会競争法部会長(住友化学特別顧問)は、「(政府案と民主案は)それぞれに長短がある。両方の問題点を除いて、いいところをとった案をつくっていただきたい」と述べ、自民、民主を競わせる姿勢を示しました。
独禁法改定案をめぐる審議の舞台は、来年の通常国会に移ります。
日本経団連役員企業のカルテル・談合事件(1991年以降) | ||
日本経団連役員(会長・副会長)企業、およびその関連企業 | 内容・時期 | 課徴金(万円) |
(1)新日本製鉄 新日鉄化学 日鉄運輸 日鉄建材工業 日鉄セメント 新日鉄化学 |
国際カルテル (1999年12月) 国際カルテル (2002年12月) 入札談合 (2004年6月) カルテル (1997年2月) カルテル (1991年3月) カルテル (1991年3月) |
― ― 1759 14億744 12億8853 2億2830 |
(2)東芝 東芝電池 |
入札談合 (2004年6月) 入札談合 (1995年7月) 入札談合 (2001年8月) |
21億7053 (係争中) 1億9657 391 |
(3)住友商事 | 入札談合 (1995年10月) | 898 |
(4)日立製作所 日立エンジニアリング 日立金属工事 |
入札談合 (1995年7月) 入札談合 (1995年8月) 入札談合 (2004年3月) 入札談合 (2000年7月) 入札談合 (2004年6月) |
1億7209 2億1679 係争中 188 287 |
(5)三菱重工業 |
入札談合 (1999年8月) 入札談合 (2004年3月) |
係争中 係争中 |
(6)ソニー | 入札談合 (1995年3月) | 1359 |
(7)武田薬品工業 |
国際カルテル (欧州、2001年 米国、1999年) 国際カルテル (欧州、2002年) |
― ― |
(8)住友化学工業 住友精化 |
カルテル (2001年5月) 入札談合 (1998年9月) |
係争中 1245 |
(9)日本郵船 | 国際カルテル (2000年5月) | ― |
(10)三菱商事 三菱インターナショナル・コーポレーション |
入札談合 (1995年10月) ※国際カルテル (米国、1994年) 国際カルテル (米国、2000年) ※国際カルテル (米国、1994年) |
257 ― ― ― |
(11)東京海上火災保険 | カルテル (1998年4月) | 13億9976 |
(12)松下電器産業 |
入札談合 (1995年3月) 入札談合 (2001年8月) ☆入札談合 (2003年2月) ☆入札談合 (2003年2月) |
4245 988 係争中 係争中 |
(13)三井物産 | 入札談合 (1995年10月) | 829 |
(14)三菱電機 |
入札談合 (1995年7月) 入札談合 (1995年3月) |
5672 2819 |
(15)日本電気 日本電気インフォメーションテクノロジー NEC米国子会社 |
入札談合 (2004年6月) 入札談合 (1991年5月) 入札談合 (米国、2004年) |
20億4106 (係争中) 2億3513 ― |
(16)伊藤忠商事 | 入札談合 (1995年10月) | 472 |
(17)味の素 |
国際カルテル (欧州、2000年 米国、1996年) 国際カルテル (欧州、2002年 米国、2001年) |
― ― |
(関連会社のみが関与した企業) | ||
(18)トヨタ自動車 東京トヨタフォークリフト 東京トヨタ自動車 |
― カルテル (1991年10月) カルテル (1991年10月) |
― 5626 435 |
(19)小松製作所 東京小松フォークリフト |
― カルテル (1991年10月) |
― 3153 |
(20)日産自動車 九州日産ディーゼル 中国日産ディーゼル 日産ディーゼル道東販売 日産ディーゼル兵庫販売 大阪日産ディーゼル 山陽日産ディーゼル 日産ディーゼル静岡販売 日産フォークリフト東京販売所 |
― カルテル (2001年6月) カルテル (2001年4月) 入札談合 (1998年8月) ★カルテル (1994年10月) ★カルテル (1994年10月) ★カルテル (1994年10月) カルテル (1992年3月) カルテル (1991年10月) |
― 4194 5830 374 1億2173 1億7318 8437 4691 2054 |
(21)三菱化学 三菱化学ビーシーエル 三菱樹脂 三菱樹脂 |
― 入札談合 (2003年12月) カルテル (1992年3月) カルテル (1992年7月) |
― 1312 9148 715 |
(注)国内については、1991年以降、課徴金納付命令が出たもの。欧米については、制裁金・罰金が決定したもの。※☆★印は、それぞれ同じ事件の別の案件。日本共産党の塩川鉄也衆院議員調べ。 |