2004年11月19日(金)「しんぶん赤旗」
11回目を数えるバレーボールのVリーグが始まりました。アテネ五輪をたたかった全日本女子のメンバーも、それぞれの所属チームで活躍しています。ところが、あの選手の姿が見えません。
「プリンセス・メグ」の愛称で、多くのファンに親しまれている栗原恵選手(20)です。栗原は10月13日付で「バレースタイルが合わない」ことを理由にNECを退社。一時は海外移籍も模索しましたが、国際的な視野をもつセリンジャー監督や吉原、佐々木など全日本で刺激をうけた選手がいるパイオニアに今月8日付で入社しました。
しかし、Vリーグの移籍規定のなかには(1)開幕30日前からシーズン終了までは、他チームに移籍できない(2)これ以外の期間で新たに別のチームで登録申請する場合、前のチームを退社または退部の日から1年を経過しないと出場できない―とあります。
この規定に従い、栗原は今季のVリーグが終わるまで登録上はバレー部に所属できず、試合にも出られません。さらに、移籍前のチームの同意がなければ、1年間も各リーグ戦に出場できないのです。若く有望な栗原にとって、経験を積む場を奪われることは、大きな痛手です。実力と人気をかねそなえた選手だけに日本のバレー界にとっても損失でしょう。
選手の引き抜きを防ぐ目的でつくられた移籍規定によって、過去にもトップ選手が試合に出られない事例がありました。規定ができた背景には、勝手な引き抜きが横行すればVリーグ自体が成り立たなくなるという懸念があります。しかし栗原の場合、チームのめざすバレーや方針が合わず、自分がプレーしやすい環境を求めたものでした。どんな理由があっても、適用されるこの規定は、選手の人権をそこなうことにつながります。
しかも、バレー界には強豪校と企業チームの間に特定の太いパイプが敷かれているといいます。〇〇校出身は〇〇企業へ―という具合です。かりに高校を卒業したばかりの選手が、その流れで社会人チームに入り、そこのチームや指導者になじめなくても試合に出るためにはがまんしなくてはならない――。この規定にはそういう性格がふくまれています。
かつてVリーグの規定のなかには、海外に移籍した選手は全日本に入れないという鎖国的なものもありました。男子の加藤陽一がイタリアのプロリーグに移ったことで、この条項が見直された経緯があります。今回の移籍規定も昨年までは選手の出場停止期間が1年6カ月の長期間でした。
Vリーグの目的は「オリンピックで金メダルを獲得するための選手強化の一施策として、わが国バレーボール界の上位チームに相互錬磨の機会をより多く与え、その技術の向上強化を図るとともに、国内におけるバレーボールの普及発展に寄与すること」と明記されています。
しかし、実際の規定は選手を縛りつけ、外に視野を広げたものになってはいません。ほかの国内のプロスポーツからみても遅れています。
バレーボール協会のある理事は「もっと選手の側にたったルールづくりが必要だと思う」と率直に話します。Vリーグ関係者からも「企業の理解を得ながら、選手がいろんな形でチャレンジできるようなものをつくっていきたい」という意見を聞きました。
Vリーグの活性化は、日本バレー界全体の発展と、世界をみすえた選手強化に欠かせない課題です。そのためにも、選手が成長できる環境づくりが求められます。
(本紙スポーツ部記者)