2004年10月19日(火)「しんぶん赤旗」
日本のトップ企業の厚い差別の壁に、女性たちが風穴を開けました。野村証券で働く女性十三人が賃金・昇格での男女差別是正を求めていた裁判で十五日、東京高裁で和解が成立しました。
二〇〇二年二月の一審判決は、改正男女雇用機会均等法が施行された一九九九年四月以降も続けられてきたコース別人事制度が「女性であることを理由として男性と差別的取り扱いをするものであり、均等法六条に違反するとともに、公序に反して違法・無効である」と認定しました。野村証券が現在実施している人事制度について「違法」と認めたことは、大きな衝撃となりました。
和解の内容は、さらに踏み込み、一審で退けられた原告の昇格を認めました。同様の制度を採用する多くの日本企業に、あらためて雇用政策の転換を迫るものです。
コース別人事制度は、「仕事の違い」を口実に男女をコース別に分け、差別を温存する制度として大企業などに広がってきました。同制度を採用する企業で、総合職に占める女性は全体の3%と極めて低いのが実態です(厚生労働省調査)。
野村証券は一九八六年、女性を「一般職」、男性を「総合職」と位置付けるコース別人事制度を導入。男性は高卒十三年で自動的に課長代理へ昇進しますが、女性は昇格から除外されてきました。原告らは四十年以上にわたり男性と同じように働きながら、課長代理にすらなることができませんでした。年収で三百万―四百万円も格差が生まれ、退職後は年金額でも差がついています。
女性たちは、研修さえ受けさせてもらえない悪条件のもとでも、午前五時に起きてニューヨーク市場の数字を頭に入れ、家事や子育て・介護のあとに眠気とたたかい、ノートを作る努力をし、現場を支えてきました。
日本のコース別人事制度に見られるような「間接差別」の撤廃は、国際的にも重要な課題です。「企業の社会的責任」を求める声が大勢となり、人権や環境、倫理を守らない企業は社会的に認められない、との世論が急速に広がっています。
二〇〇三年の国連・女性差別撤廃委員会(CEDAW)では、コース別人事制度の一般職に圧倒的に女性が多いことは、間接差別になるのではないか、との批判が相次ぎました。ILO(国際労働機関)は日本政府に、コース別人事制度が女性を差別するような方法で使用されないよう、必要な措置をとることなどを強く勧告しました。
欧州の投資評価会社GESは「野村証券において、雇用と昇格における女性差別問題でILOが調査していること」「裁判所が女性差別を認め、女性従業員に賠償金の支払いを命じたこと」を理由に、野村ホールディングスを「投資不適格会社」と非難しました。
国際的な批判が向けられるなか、野村証券は四月、倫理規程を公表。人権を尊重し、性別を理由とした差別を一切行わないと表明しました。
支援の輪の広がりも和解の力となりました。四月の「野村証券の女性差別をなくす応援団」結成には四百人が参加。元NHKアナウンサーの酒井広さんら著名人が代表委員を引き受けました。
毎月の行動には全国から百人以上が集まり、全国の支店で配布したビラは六十万枚を数えます。「裁判で休暇をとるときには、職場の女性たちが『私たちのためにたたかってくれてるんだから』と送り出してくれた」(棚尾節子さん)というように、同僚の応援も支えとなりました。
提訴から十一年。提訴前に労働組合で「賃金・昇格差別是正」を求めてきた十九年を合わせると三十年にわたるたたかいでした。十人が定年を迎え、原告団の事務局長として奮闘した大久保正子さんは七カ月前の三月、帰らぬ人となりました。
野村証券のコース別人事制度は断罪されましたが、同社では従業員約一万一千人中、女性管理職は二十七人にとどまり、男性の一般職は一人もいません。和解の前文には、裁判長の次の言葉が記されています。「引き続き、第一審被告において、男女を問わず上記倫理規程に謳(うた)われているすべての役職員等にとって差別のない働きやすい環境が維持発展されることを期待して、職権で和解を勧告する」
野村証券は、名実ともに「差別のない働きやすい」職場づくりに向け、誠実な努力をすることが求められています。
〇六年には、均等法の見直しも予定されています。この和解が、原告たちの思いそのままに、すべての働く女性たちに春を呼ぶ力となることを、願ってやみません。
丸山聡子記者