2004年10月16日(土)「しんぶん赤旗」
日本の大企業の最近の業績回復ぶりは目を見張るものがあります。にもかかわらず、財界・大企業は賃金抑制・コスト切り下げの攻撃をさらに強めようとしています。そのために、財界・大企業がとくに力を入れて宣伝しているのが、日本の賃金水準は、世界のトップレベルにあるから引き下げなければならない、という議論です。経営者側のこうした議論のでたらめさを明らかにして、コスト切り下げ攻撃を打ち破っていくことがいま求められています。
生活と程遠い為替レート論 |
財界・大企業が持ち出している議論は、「わが国の賃金水準は世界のトップレベル」にあるから、「国際競争力を維持・強化する観点からも、賃金水準の調整が喫緊の課題となる」(日本経団連「経営労働政策委員会報告」二〇〇四年版、以下「経労委報告」)というものです。
「経労委報告」では、日本の賃金水準を為替レートで計算し、アメリカの労働者の賃金は日本の101%だが、ドイツは85%、イギリスは86%、フランスは63%だといっています。
この計算のでたらめさは明白です。旧労働省の『労働白書』でさえ、賃金の国際比較は購買力平価(その国の賃金でどれだけのものが買えるかという、その国のなかでの賃金の実力)で計算するのが正しいと指摘していました。
この購買力平価で計算すると、ドイツの労働者は日本の一六一の賃金、アメリカ、イギリスは一三三、フランスは一二四になります(労働政策研究・研修機構『データブック 国際労働比較2004』)。日本の労働者の賃金は、「世界のトップ水準」どころか、先進資本主義国のなかでははるかに低い水準にあるというのが実態です(グラフ)。
日本経団連流の計算でいくと、円相場が上がったり、下がったりするたびに、賃金が変わることになります。たとえば、三十万円の月額賃金だとすると、二〇〇三年の円レートは〇二年より8%上がっているので、日本経団連流にいうと、〇三年の労働者の賃金は、同じ額でも〇二年と比べて二万四千円も上がったということになります。そんな計算は労働者の暮らしとまったく関係がないことは明らかでしょう。
賃金比較論のごまかし |
財界・大企業が、為替レートで賃金を計算する、もう一つの“言い分”があります。その要旨をかいつまんでいうと、つぎのような議論です。
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経済のグローバル化が進行するなかで、日本の大企業が世界市場で売上高をあげ、シェアを拡大することが必要になっている、それが日本企業の生き残る道だ、だから、国際競争力をつけるためにコストを引き下げなければならない、この場合のコストは国際的な関係でのものの売り買いをするのだから為替レートで計算されなければならない、為替レートで見ると、日本の賃金はトップレベルだから、賃金引き下げは当然だという議論です。
しかし、この“言い分”にも重大なごまかしがあります。コストとしての人件費は賃金水準だけでなく、労働時間の長短も含まれているからです。コストとしての人件費の比較は、労働時間も同じ条件にする必要があります。
前回の「こんなに違う労働時間 東芝に見る日本とドイツ」(十月六、七日付)では、同じ東芝グループの労働者でありながら、親会社である日本の東芝の労働者は、子会社の東芝コンダクタ・ドイツ社の労働者より年間五百時間も長く働き、日本の東芝労働者の労働時間は、ドイツのグループ子会社の労働者の一・三倍にものぼっていることを明らかにしました。
日本と比較して、購買力平価でみたドイツの賃金水準は高く、労働時間が逆に短いということは、コストとしての人件費はドイツのほうが圧倒的に高いことを示しています。
財界・大企業は、そんなことは百も承知で、もっともらしく賃金だけをとりあげて為替レートで計算するというごまかしをしているのです。
営業利益率は欧の3倍以上 |
日本の労働者が、ヨーロッパと比べていかに低い賃金や劣悪な労働条件を押しつけられているかは、企業の営業利益率によっても証明されます。
営業利益率は、財貨や役務の生産・販売という企業本来の活動から生まれる成果である営業利益が売上高のなかに占める割合を見たものです。(営業利益率=営業利益÷売上高×100)
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したがって、賃金コストが高ければ高いほど営業利益(率)は減り、低ければ低いほど営業利益(率)が増えるという関係になります。
東芝の事例に即して、営業利益と営業利益率を見ていくことにします。グローバル企業である東芝は、世界各地に進出して生産・販売活動をおこなっています。同社の有価証券報告書(〇三年四月一日―〇四年三月三十一日)を見ると、連結決算のなかで「所在地別セグメント(区分)情報」として、日本、アジア、北米、欧州、その他の五つに区分して売上高と営業利益がそれぞれ記載されています。
〇三年度の地域別の売上高と営業利益を見ると、北米や欧州と比べて日本の営業利益率の高さが際だっています(表)。営業利益率は、北米0・96%、欧州0・77%にたいして、日本3・01%です。日本の営業利益率は、北米の三・一四倍、欧州の三・九一倍にもなっているのです。
財界・大企業の宣伝する日本の労働者の高賃金論、高コスト論がいかに誤っているかは明らかです。