2004年10月15日(金)「しんぶん赤旗」
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金銭貸借契約などの証書として使われ、銀行口座や給料の差し押さえもできる効力を持つ「公正証書」を悪用した商工ローン会社の手口が問題になっています。日本弁護士連合会(日弁連)も「債務者が知らないまま公正証書がつくられ、高金利取り立てのための差し押さえがされている」と問題視しています。
「債務を履行しないときは、ただちに強制執行に服す」。川崎市の地方公務員の男性(48)に二〇〇二年秋、こんな文言が入った「債務弁済契約公正証書」が届けられました。貸し手は商工ローン大手の「SFCG」(旧商工ファンド)。
この男性は、SFCGから借り入れた知人の連帯保証人になっていました。「おどろいたし、すごいことになったんじゃないかと慌てました」と話します。
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金銭貸借の公正証書をつくるには当事者双方の同意が必要ですが、男性に公正証書をつくった覚えはありませんでした。「SFCGの会社で、ここに書いてくださいといわれただけで、公正証書のことは何もいわれなかった。普通の保証人になっただけだと思っていました」
SFCGは金を貸す際に債務者と保証人から委任状をとり、それをもとに公正証書を作成します。しかし、委任状の署名は、契約書からカーボン複写を通してとられていました。男性は実印も「社員が押します、というので渡した」といいます。男性の代理人の茆原(ちはら)洋子弁護士は「分厚い契約書類に紛れているため、気付かない人が多い。実印も『押しもれがないように』といわれると預けてしまう」と話します。
日弁連・消費者問題対策委員会は公正証書問題について、このほど会員対象のアンケートを実施しました。それには▽本人の知らないうちに公正証書が作成された=百十一件▽差し押さえをしたのはSFCGが最多で九十八件――という結果が出ました(過去五年対象。回答百七十二件)。なかには、▽法律違反の内容(うその債務、借入額など)の公正証書が作成された=十二件▽元金の返済が反映されずに作成された=二十五件▽利息制限法で計算すると債務がなかったり、少ないのに、それを超える金額で差し押さえがされた=七十五件――といった例も。詐欺や利息制限法違反の高利回収に公正証書が使われている実態が浮かびました。
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前出の川崎市の公務員は、差し押さえを防ぐため百万円超の供託金をなんとか工面し、執行停止の申し立てなどの措置をうって、最悪の事態を免れました。茆原弁護士は「公正証書が判決と同じ力をもち、利息制限法の再計算がされない金額で差し押さえをされるとわかれば、はんこをつく人はいない。しかし実際は、一回の説明も受けないまま作成までいってしまう。公証人も、法律をきちんと教示し、本人に意思確認する必要がある」と指摘します。
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公正証書 民法、公証人法などに従って、法務大臣に任命された裁判官OBなどの公証人が、遺言作成や金銭貸借契約などについて作成する証書。当事者か委任された代理人が公証役場に出向いて作成を嘱託(依頼)し、公正証書原本は役場に置かれます。高い証明力を持ち、金銭の債務については強制執行もできます。