2004年10月4日(月)「しんぶん赤旗」
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全国食健連(国民の食糧と健康を守る運動全国連絡会)は一日、横浜市の神奈川県民ホールで緊急シンポジウム「いまなぜ食料自給率向上なのか」を開きました。グリーンウエーブ(「食糧の波」、国民の食糧と健康を守る全国統一行動)のスタート横浜行動です。
コーディネーターを務めた全国食健連の坂口正明事務局長は「残留農薬、BSE(牛海綿状脳症)など輸入依存の危険がますます明らかになり、九割近い人が自給率向上を要求している。しかし、政府は自給率向上を『関係者の努力』にまかせ、市場原理で自由化をすすめている。自給率向上は『お題目』では実現しない。どんな政策がよいのか、運動をさぐりたい」とのべ、シンポジウムのねらいを紹介しました。(「食料自給率をめぐる現状と政府の動き」参照)
これにこたえ、各界の第一線で活動するパネリスト四氏が報告し討論しました。
横浜の港を中心に活動する板倉さんは、同日おこなった「食料の輸入依存をやめよ」海上デモについて、きっかけとなった二十年前の「韓国米輸入反対デモ」を振りかえりました。
「水田を減反しているのに米を輸入するという。輸入港の労働組合員としてなんとかしなければと、神奈川の農民組合に相談した。海上デモの実行委員会をつくったら、東北六県の農民も参加するという。デモ申請変更で水上警察にいったら、担当者が『労働組合もなかなかよいことをするんだね』といった。減反を強いられ草ぼうぼうの怒りがその人にもあったんだろう」
その後、港湾労組内で話し合うと、「米だけでない。港の輸入食品も大変じゃないか」。野積み農産物や添加物の告発、それが農家や消費者の港見学会へと発展しました。施設の改善も進みました。
板倉さんは、食品通関の規制緩和を告発しました。「一九八五年、通関業務がコンピューター処理になり現物検査は建前とされた。輸出国の検査証明があれば検査しなくてもよい。九五年には、農薬残留基準や食品添加物の安全基準が大幅に緩められた。違反が分かってもすでに流通させて食べてしまっている。検査の人数が足りないのが実態だ」。「食健連の活動、港の監視と見学会はこれからも続けたい」と抱負を語りました。
「民間委託では子どもにとって幸せな学校給食ができません」と切り出した雨宮さんは、民間委託では、手間をかけない加工食品が中心になり、食材として地域の農産物が使われないと話しました。「民間委託をやめた学校の地域では、地産地消に農業が根付いている」と紹介しました。
学校給食の歴史を振りかえり、アメリカの余剰小麦のはけ口としてパン食が始まり、高度成長期は大型冷蔵庫に冷凍加工食品が入り、グレープフルーツやオレンジなど輸入果実とあわせ洋風化が広がり、アレルギー症状や肥満、食生活の乱れで子どもの健康問題が深刻になってきたと紹介しました。
雨宮さんは二〇〇〇年代の特徴として「学校給食のパンに視神経が侵されるマラチオンなど農薬が検出された。これでは子どもの体、脳はおかしくなるといって各地で学校給食の地産地消の運動がものすごく発展しています」と期待をのべました。
「どんな食事が子どもたちによいのか。それは日本の伝統的な食文化です。グリーンウエーブでは、“千葉県を丸ごと食べる会”の行事などもあります。安全で品質が良いものを媒介として学校給食改善の運動を進めることが食料自給率向上に大きな力になると思う」と強調しました。
小林さんは、長野県の佐久地方で産直や地産地消の運動をする「佐久楽農倶楽部」の経験を報告しました。
「このまま農業が衰退していけば、農家は自分たちのものをつくるだけ。それでよいのかと佐久農民組合で話し、ともかくものづくりを呼びかけてみようとなった。じっちゃん、ばっちゃん、兼業農家が五十人も集まり、『カネかけないで楽しくやろう』となった。自分たちが作ってきたネギやトウモロコシなど野菜は生協や産直ボックス、地元スーパーの産直コーナーに出した。野草のナズナなどはビタミンCが豊富。病院給食で喜ばれている。会員は三年で二百四十人までになった。農民の原点はものづくり。意欲はみんな持っている」
農業支援を大規模専業農家や法人にしぼる小泉「農政改革」について、専業農家の小林さんは、「地域農業の生産力を高めるのは専業だけではない。むしろ専業は手いっぱいだ。兼業農家、高齢者にも大いに頑張ってもらう。とくに労働者は団塊の世代も退職になり大いに期待できる」とのべました。
今後の方向について「“私つくる人、あなた食べる人”でなく、農村と消費者の交流が大事だ。学校給食への地場産供給、少量多品目で食べてもらう多様な流通を構築したい」と話しました。
「心と体と社会の健康を同時に高める食生活を実現することを研究してきた」という江指さんは、「本当の意味での健康を考えると、国産でなければならない」と話しました。
体の健康面では、日本が一九七〇年代後半から世界一の長寿国になっている背景を紹介。江指さんは「日本は和食中心の食事内容にその原点がある、というのが世界のノーベル賞クラスの研究者が参加しているグループの評価だ。お米、野菜、大豆、海藻、根菜類などの食事は脂肪の過剰摂取につながらない」と説明しました。また、「長寿県の沖縄に行ってこれはいずれ短命になると思った。アメリカからきた脂肪が多いコンビーフが各家庭の常備食となっていた」と紹介しました。
米の消費量が減り、その分油や肉が増えている食生活が日本の医療費増にもつながっていると指摘。「“早い安いおいしい”の加工食を考えなおし、料理をする時間も正当に評価し、国産を使う自覚で自給率向上を」と呼びかけました。
「地域が持っている食べ物を広める工夫、旬と季節感がある食べ物は精神的内面の健全性にむすびつく。独立国としては、主食と主なおかずとなるものは日本でつくる。これが心と体と社会の健康を同時に高めることになる」と訴えました。
日本の食料自給率は、1970年度は60%でしたが2003年度現在、カロリーベースで40%となり6年連続の横ばい。下落傾向を脱することができない。
穀物自給率(重量ベース)は03年度では前年度から1ポイント低下し27%。世界173カ国のうち130番目。
○政府の目標と基本姿勢
「食料・農業・農村基本法」にもとづく「基本計画」では、2010年度までにカロリー自給率を45%に引き上げる目標。しかし、政府の責任でなく「農業者その他の関係者が取り組むべき課題を明らかにして定める」(同法第15条の3)としている。
○市場開放、農業担い手を絞る「基本計画見直し」
食料・農業・農村政策審議会企画部会でおこなっている基本計画見直しでは、農業支援の対象とする「担い手」を大規模農家や法人だけに絞る「中間論点整理」を発表。株式会社の農業参入、多くの農家を切り捨てる方向を示す。
「中間論点整理」では、現在交渉が進められているWTO(世界貿易機関)やFTA(自由貿易協定)で、資本と貿易の自由化をすすめるため「国境措置に過度に依存しない政策体系」を強調する。
小泉首相は「農業鎖国は続けられない」との姿勢を示している。