2004年9月28日(火)「しんぶん赤旗」
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在宅介護を支える大黒柱・ホームヘルパー。ところがその多くは生活や身分の保障もないまま、利用者に寄り添い続けます。「いい介護をしたい」というヘルパーの願いをかなえるには…。堤 由紀子記者
「私たちはただ漫然とサポートしているのではありません。利用者をトータルに見て、『今日も無事に生きていてよかった』という充実感を生み出すような介護を続けたい。そのためにも、生活や身分の保障をきちんとしてほしいんです」
こう話すのは、ホームヘルパー全国連絡会代表の三輪道子さん(京都市在住)です。
ヘルパー歴十三年。最初の壁は、「登録ヘルパー」という働き方でした。必要とされた時に事業所から声がかかり、その働きに応じて収入が入るので、利用者が入院すると仕事がなくなり、次の仕事がいつ入るのか見当もつきません。労災もありませんでした。
「生活が不安定なので、やむなくヘルパーをやめていく人たちもいます。経験が蓄積されないし、ヘルパーがコロコロ変わったら利用者にとっては大迷惑。このままではいい援助ができない」と七年前、労働組合・京都ヘルパーネットを結成しました。仕事の有無にかかわらず最低週三十二時間または十五時間分の業務手当が保障される「契約ヘルパー制度」を実現。社会保険や労災も適用され、登録ヘルパーにも労災を認めさせるなど、いくつもの成果を勝ちとりました。
ヘルパー一級の資格を持つ三輪さんですが、現場に出てあらためて研修の大切さを実感しています。
例えば、おむつ替え。ベッドの両サイドにヘルパーが入れる空間があればスムーズにできます。ところが、ある家では、狭い部屋の壁にくっつけてベッドが置いてありました。さて、どうするか。三輪さんは悩んだ末、「ごめんなさい」と利用者に断ってからベッドの上に乗り、なんとかおむつ替えをしました。
「後で別のヘルパーに聞いたらそれでよかったらしいのですが…。その場で判断を迫られる仕事ですし、援助のあり方がその人の命に直結する場合もある。働き始めた後の研修の場を増やして、働きやすいものにしてほしい」
社会保障審議会介護保険部会の「介護保険制度の見直しに関する意見(案)」でも、「介護人材の処遇の水準は概して低い」とした上で、「質の高い人材の養成・確保の観点からも雇用管理の在り方について、今後検討していく必要がある」と指摘。「専門性の向上と研修の体系化」もうたっています。「見直すのであれば、ヘルパーとして誇りをもって働き続けられるような制度にしてほしい」。三輪さんの願いです。
「ヘルパーの仕事とは何かが理論化されていないこともあって、『誰でもできる』と軽視されがちです。でも、理論化されるまで待つのではなく、『専門性』について自ら声をあげなければと思っています」
『ホームヘルプ労働の自立と未来』(本の泉社)を書いた櫻井和代さん(ホームヘルパー全国連絡会副代表)は、東京・江戸川区で二十二年、公務員ヘルパーとして働いてきました。
「ヘルパーの仕事の本質は、心を温かくする援助。介護される人の要望を見極めるためにも、相談助言は欠かせません」。かつてヘルパーの職務は「家事、介護、相談助言」とされるほどの位置付けがありました。ところが、介護保険制度では相談助言に報酬単価が設定されず、「細切れ介護」といわれるような短時間に分割された行為だけを行うようなしくみがあります。こういったところにも、ヘルパーの仕事の「専門性」を評価せず、不安定さをもたらす要素があるといいます。
「いい介護のためには、介護する人たちの質が問われます。介護現場で働く者の権利を守り、生活を維持できるような制度が求められていると思います」