2004年9月27日(月)「しんぶん赤旗」
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その数、ざっと五十二万人。「ニート」とよばれる、働かず求職も通学もしていない「若年無業者」を厚生労働省の「労働経済白書」が初めてとりあげ、波紋を広げています。フリーターでもなく、働く意欲そのものを失ったようにいわれ、つかみどころのない「無業者」の数を、どうやってはじきだしたのか。政府の関心は何か。担当者にあたってみました。坂井希記者
厚労省の統計は、総務省統計局の「労働力調査(詳細集計)」がもとになっています。労働力としてカウントされるのは、調査期間中に仕事をしていた「従業者」、仕事を休んでいた「休業者」、仕事を探していた「完全失業者」です。これ以外が「非労働力人口」です(図参照)。
厚労省はここに的をしぼり、年齢は十五―三十四歳、卒業者かつ未婚であり、かつ通学や家事を行っていない者を集計しました。
「労働経済白書」は今回で四回目。「若年無業者数」を発表したのは、今回が初めてです。就職活動そのものをしていないために、失業者にもカウントされない。アルバイトもしていないので、フリーターでもない。これまでは統計上にもあらわれてこなかった若者たちに、なぜいま政府が注目したのでしょうか。
統計を担当した厚労省の労働政策担当参事官室は、「若年の無業者対策は、厚労省の今後の重点施策の一つ。今回の計算もその一環です。今までは就職活動をしている人対象の施策が中心だったが、日本の労働、経済の今後を考えると、求職活動をしていない人を対象にした支援も必要になっている」といいます。他の部署も含めてきいてみると、次のような言葉が返ってきました。
「学卒で進学も就職もしない無業者が毎年増えている。それが積み重なってどのくらいになったのかを調べたら五十二万人だった。今後、若者の労働力人口は減っていくわけで、こういう人たちを放置しておくわけにはいかない」(職業安定局若年者雇用対策室)
「フリーターの増加に加え、去年あたりからフリーターにもなれない『ニート』とよばれる若者が増えているということが、各方面から聞こえてきた。この五年で倍になったといっている人もいる。そこで厚労省としても調べてみたら、〇二年は四十八万人、〇三年は五十二万人と増加傾向にあることがつかめた」(職業能力開発局育成支援課キャリア形成支援室)
厚労省でいくつもの部署にまたがって、若年者雇用の問題が検討されていることがわかります。この間、若者の高失業率やフリーターの増加をはじめ、若者の雇用問題が社会問題としても大きくとりあげられるようになってきました。
内閣府「国民生活白書」(〇三年版)は「若年の職業能力が高まらなければ、日本経済の成長の制約要因になる」「社会を不安定化させる」「未婚化、晩婚化、少子化などを深刻化させる」と警鐘を鳴らしました。青年や国民各層からは、「国をあげた対策を」との声がひろくあがりました。厚労省の姿勢には、そうした世論の反映があるともいえるでしょう。
しかし、ニートを生みだす問題には踏み込まず、若者の雇用対策を、働く意欲の不足など若者の意識の問題に解消してすませようというねらいなら、政府の責任を棚上げにすることになりかねません。
求職活動にも踏み出せない理由には、さまざまなケースがあります。企業の求人が、新規採用で時間をかけて育成することを放棄し、「即戦力志向」になるなど様変わりしている問題はそのひとつです。そのため、入り込めず立ちすくんでしまっているケースは、本人の意欲だけでは解決できません。また、サービス残業や長時間労働のためいったん就職したが心身ともに疲れ果ててしまったケースもあります。「ニート」の増加を放置せず、今後は、若者の実態や思いをよくふまえた、きめ細かい対策が必要です。
ニート(NEET) Not in Education,Employment or Trainingの頭文字をとった造語。直訳すれば「在学中でも雇われ中でも訓練中でもない」。もとはイギリスで、就学も就労もせず、職業訓練も受けていない若者を指して使われ始めました。
労働総研(労働運動総合研究所)常任理事・小林宏康さんの話 ヨーロッパでは、「社会的排除」という言葉で青年の無業者を含む若年失業問題をとらえ、社会から孤立し、排除されていく人たちへの公的支援を強化しています。日本では、どうしても個人の問題としてとらえられがちなのが一番問題です。統計のとり方にもよるので数が正確かはわかりませんが、五十二万人のなかには、いわゆるひきこもりの若者たちも含まれるでしょう。これも社会問題です。「ニート」はある推計ではこの十年で一・六倍といわれます。とくに大企業の新規学卒求人のしぼりこみが影響しているのは明らかです。「働く意欲のない若者も、どこかに押し込んでしまおう」などということではなく、雇用の創出、教育訓練や福祉の充実など、総合的なとりくみが必要です。ヨーロッパに学ぶとすれば、「ニート」という言葉の引用でなく、雇用や福祉を大切にする政治の姿勢こそ学ぶべきです。