2004年9月27日(月)「しんぶん赤旗」
介護保険制度で働くホームヘルパーに対して、労働時間や賃金の支払いが適正でない深刻な実態が問題になっています。このため厚生労働省が、労働基準法に定める「労働条件の確保」を事業所に徹底するよう都道府県労働局長に通達をだしていたことが、このほどわかりました。
ヘルパーの多数をしめる「登録ヘルパー」は、労働者とみなされず、労基法の適用があいまいなまま働かされるケースが横行。こうした事態の打開を求めて、ヘルパーの労働組合や団体が運動し、日本共産党も国会で追及していました。
通達では、介護保険法に基づくヘルパーは勤務形態にかかわらず、「労働基準法第九条の労働者に該当する」と明確に定義しています。この問題では、日本共産党の井上美代参院議員(当時)が五月の国会で、ヘルパーの労働者性を認めるよう追及。通達の定義の元となる答弁を厚労省側から引き出していました。
井上議員は自宅から利用者宅に直行して直帰する登録ヘルパーを労働者ではなく「委託」や「請負」とみなす誤りを指摘。労災保険などが適用されず、労働時間も利用者宅で働いている間だけとされるなどの問題の改善を求めました。
労働者と定義されたことで、労災保険などが適用され、通達に示された解釈にそって移動や待機、研修なども労働時間として賃金が算定され、休業手当も支払われます。
ヘルパー労働者を組織する東京自治労連副中央執行委員長の白神薫さんは「この通達を広く知らせることが大事です。これからも行政・事業者と交渉しながら改善を求めます」といいます。
日本共産党の小池晃政策委員長・参院議員の話 登録ヘルパーを労働者と認める通達は労働条件を改善し、介護サービス向上につながります。引き続き条件改善と、通達に示された労働内容にみあった介護報酬の引き上げを求めます。
一面所報のホームヘルパーの労働条件にかかわる厚労省通達の抜粋
「労働基準法等関係法令に関する理解が必ずしも十分ではない事業場が少なくないことなどから、賃金、労働時間等に係る法定労働条件が適正に確保されていない状況がみられる」「このような状況を踏まえ、今般、訪問介護労働者に係る労働基準法等関係法令の適用について、下記のとおり取りまとめたところである。」「関係事業者団体への周知、集団指導の実施等により、この内容を徹底し、訪問介護労働者の法定労働条件の確保に遺憾なきを期されたい。」
1 定義等
(1)本通達における訪問介護労働者の定義
「介護保険法に基づく訪問介護の業務に従事する訪問介護員等については、一般的には使用者の指揮監督の下にあること等から、労働基準法第9条の労働者に該当するものと考えられること。」
(2)訪問介護労働者の勤務形態
「非定型的パートタイムヘルパー(注・いわゆる登録ヘルパーなど)は、訪問介護労働者の多数を占めており、利用者からの訪問介護サービスの利用申込みに連動して、月、週または日の所定労働時間が非定型的に特定されるため、労働条件の明示、労働時間の把握、休業手当の支払、賃金の算定等に関して、労働基準法等関係法令上の問題点が多くみられること。」
2 訪問介護労働者の法定労働条件の確保上の問題点及びこれに関連する法令の適用
(1)労働条件の明示
「訪問介護事業においては、訪問介護労働者の雇入れ時に、労働条件の明示がなされないことやその明示内容が不十分であることなどにより、労働条件の内容を巡る問題が生じている場合も認められるところであるが、労働条件の明示に当たっては、以下の事項に特に留意する必要があること。」
ア 労働契約の期間
「非定型的パートタイムヘルパー等については、労働日と次の労働日との間に相当の期間が生じることがあるが、当該期間も労働契約が継続しているのかどうかを明確にするため、労働条件の明示に当たっては、労働契約の期間の定めの有無及び期間の定めのある労働契約の場合はその期間を明確に定めて書面を交付することにより明示する必要があること。」
イ 就業の場所及び従事すべき業務等
(2)労働時間及びその把握
「訪問介護事業においては、非定型的パートタイムヘルパー等が訪問介護の業務に直接従事する時間以外の時間を労働時間としていないものが認められるところであるが、訪問介護労働者の移動時間や業務報告書等の作成時間などについて、以下のアからエにより労働時間に該当する場合には、適正にこれを把握する必要があること。」
ア 移動時間
「移動時間とは、事業場、集合場所、利用者宅の相互間を移動する時間をいい、この移動時間については、使用者が、業務に従事するために必要な移動を命じ、当該時間の自由利用が労働者に保障されていないと認められる場合には、労働時間に該当するものであること。」
イ 業務報告書等の作成時間
「業務報告書等を作成する時間については、その作成が介護保険制度や業務規定等により業務上義務付けられているものであって、使用者の指揮監督に基づき、事業場や利用者宅等において作成している場合には、労働時間に該当するものであること。」
ウ 待機時間
「待機時間については、使用者が急な需要等に対応するため事業場等において待機を命じ、当該時間の自由利用が労働者に保障されていないと認められる場合には、労働時間に該当するものであること。」
エ 研修時間
「研修時間については、使用者の明示的な指示に基づいておこなわれる場合は、労働時間であること。」「実質的に使用者から出席の強制があると認められる場合などは、たとえ使用者の明示的な指示がなくとも労働時間に該当するものであること。」
(3)休業手当
「訪問介護事業においては、利用者からの利用申込みの撤回を理由として労働者を休業させた場合に、休業手当を支払っていないものが認められるところであるが、労働日及びその勤務時間帯が、月ごと等の勤務表により訪問介護労働者に示され、特定された後、労働者が労働契約に従って労働の用意をなし、労働の意思を持っているにもかかわらず、使用者が労働日の全部又は一部を休業させ、これが使用者の責めにきするべき事由によるものである場合には、使用者は休業手当としてその平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならないこと。」
(4)賃金の算定
ア 「訪問介護事業においては、訪問介護の業務に直接従事する時間以外の労働時間である移動時間等について、賃金支払の対象としているのかどうかが判然としないものが認められるところであるが、賃金はいかなる労働時間についても支払われなければならないものであるので、労働時間に応じた賃金の算定を行う場合は、訪問介護の業務に直接従事する時間のみならず、上記(2)の労働時間を算定した時間数に応じた賃金の算定を行うこと。」
イ 「訪問介護の業務に直接従事する時間と、それ以外の業務に従事する時間の賃金水準については、最低賃金額を下回らない範囲で、労使の話合いにより決定されるべきものであること。」
(5)年次有給休暇の付与
「訪問介護事業においては、年次有給休暇について、短期間の契約期間が更新され6カ月以上に及んでいる場合であっても、例えば、労働契約が一カ月ごとの更新であることを理由に付与しない例が認められるところであるが、雇入れの日から起算して6カ月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤している場合には、法に定めるところにより年次有給休暇を付与する必要があること。なお、年次有給休暇の付与条件である『継続勤務』とは、在籍期間を意味し、継続勤務かどうかについては、単に形式的にのみ判断すべきものでなく、勤務の実態に即し実質的に判断すべきものであること。」
(6)就業規則の作成及び周知
「使用者の中には、短時間労働者である訪問介護労働者については、就業規則の作成要件である『常時10人以上の労働者』には含まれないと誤解しているものが認められるが、短時間労働者であっても『常時10人以上の労働者』に含まれるものであること。」「就業規則については、常時事業場内の各作業場ごとに掲示し、または備え付ける等の方法により労働者に周知する必要があること」「非定型的パートタイムヘルパー等への周知については書面を交付する方法が望ましい」