2004年9月16日(木)「しんぶん赤旗」
「子どもを殺すなんて許せない。一番の被害者は両方の子どもたちだ」――。栃木県小山市の小林一斗ちゃん(4っ)、隼人ちゃん(3っ)が連れ去られ、隼人ちゃんが遺体で見つかった事件で、逮捕された容疑者(39)の知人が語ります。関係者の取材から容疑者と子どもたちの父親との関係がしだいに浮かんできました。
菅野尚夫記者
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容疑者と二人の父親、小林保徳さん(40)は、ともに栃木県小山市の中学を卒業した先輩と後輩の間柄。小林さんと容疑者は「暴走族の先輩後輩」(小林さん)。容疑者は、小林さんにものをいえない関係で、警察の調べにも「光熱費など入れてくれない。出ていってほしいが先輩だから断れない」などと話しているといいます。
容疑者の実家は代々の農家で、父親が土建会社を経営していました。五年前に容疑者の母親が乳がんで亡くなったころから経営が傾き、父親も脳こうそくで入院しました。
容疑者の実家の事情を知る男性は「母親一人が経理を任されていたが、母親が亡くなると父親も容疑者も経営能力はなく、あっという間に資産は失われた」といいます。小さいときからの知人が「子煩悩なやつで、小心」という容疑者は、その後、飾り立てたダンプを運転し、産業廃棄物処理の仕事をしていたものの、「不法投棄で取り締まりを受けた」といいます。
前出の実家の事情を知る男性は「容疑者は実家の家にも住めなくなりアパート暮らし。ジャガーを乗りまわしていたこともあったが、最近は暮らし向きはよくなかった」といいます。
一方、塗装工の小林さんは、大阪や東京で働いていましたが、二年前に離婚、小山市に住むようになりました。仕事と男手ひとつでの子育てに苦労し、昨年七月から十二月まで一斗ちゃんと隼人ちゃんを栃木県南部の児童養護施設に預けています。
栃木県保健福祉部児童家庭課によると「父親が一斗ちゃんと隼人ちゃんをつれてきて、『仕事が不規則で預かってほしい』と申し出がありました。その後、『東京にいく』ということから施設から二人を引き取りました。県内に戻られてからは養育困難で預かってほしいという訴えは受けていません」といいます。
その小林さん一家が容疑者宅に同居したことでいっそう事態が悪化しました。虐待の通報を受けた児童相談所も救うことができませんでした。
容疑者一家と小林さん(40)家族が住んでいたアパートは六畳間が三つの間取り。階下に住む三十代の主婦は「一世帯でも子育てがストレスになるのに別々の家族が同居するのは大変。ストレスが極限の状態にあったのでは…」といいます。
容疑者は、何の罪もない幼い子どもに殺意を向けました。どんな事情であれ、許されない行為です。仕事の失敗、家庭の崩壊、生活破たん、住宅困窮、児童相談所による救出の失敗…。そんな連鎖のなか尊い子どもの命が奪われるという取り返しのつかない悲劇が起きたのです。