2004年9月16日(木)「しんぶん赤旗」
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大学院博士課程の修了者を期限つきで研究者として採用、支援する「ポストドクター研究者(ポスドク)制度」をどう見るか。千葉大学名誉教授の三輪定宣さんは指摘します。「大学院生を量産してきた以上、一定の身分保障は政府の当然の責任ですが、就職の見通しや研究者としての成長の保障が十分でないまま、国の進める科学技術政策に若手研究者を動員してきた面も強い。ポスドク制度は改善の余地が大いにあり、実態調査は大事なことです」
政府は、どういう観点で実態調査や改善を検討しようというのでしょうか。文科相の諮問機関である科学技術・学術審議会の人材委員会(主査=小林陽太郎・富士ゼロックス会長)は、今年七月に提言をまとめました。このなかで「博士号取得者等が社会の多様な場へ進出し、活躍できる環境の整備」を打ちだし、なかでも「人材養成にかかわる産業界と大学院との連携促進」を求めました。文科省はこれにこたえ、来年度予算の概算要求に「産学連携による高度人材育成」を重点施策として盛り込んでいます。
この「高度人材育成」について三輪さんは、「支出の徹底した削減や重点化、競争原理の導入や民営化を進める小泉『構造改革』路線のもとで、“国際競争に勝ちぬける人材育成”にますます特化していくことになり、その枠内の人材養成になるのでは」といいます。
国策や産業界に学問が従属していいのかという問題もあります。「自然科学に比べて人文・社会科学分野は、博士課程修了者が正当に評価されず、就職保障もきわめて不十分です。そうした学術発展の不均衡がますます進み、日本の国のあり方にもゆがみをもたらしかねません。また、狭い競争があおられて学問の自由や共同・連帯、民主主義が損なわれ、ひいては学問の質や研究者の能力がゆがめられることも心配です」。三輪さんはこう懸念します。
政府の総合科学技術会議(議長・小泉首相)は、産業界に博士を積極的に採用するよう呼びかける方針を決めました。これについて三輪さんは、「博士の進路の多様化は当然だとしても、政府が一番やるべきは大学教員の採用増だと思います。日本は教員あたりの学生数が多い。また、ポスドクだけに目を向けるのでなく、支援を受けていない博士課程修了者や大学院生の待遇・研究条件の改善も含め、若手研究者がのびのびと研究して成長できるようにするための本格的な政策展開に踏み出すべきです」と語ります。
ひろく国民や社会全体に奉仕する学問をどう発展させるか。博士の就職難は大きな問いを投げかけています。
(おわり)