2004年9月14日(火)「しんぶん赤旗」
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スーパーマーケットの深夜・二十四時間営業が各地で急増しています。どんな理由や背景があるのでしょうか。北條伸矢記者
大手スーパーなど九十七社が加盟する日本チェーンストア協会(会長・川島宏東急ストア社長)の広報担当者は「以前、スーパーの営業は午後八時までが普通でした。生活の多様化で営業時間内に来店できない人が増え、そのニーズ(要望)に応えたものです」と説明します。
深夜、家路を急ぐ疲れた表情の会社員の姿を電車でよく目にするだけに、「消費者の要望」といわれると、なんだか納得してしまいそうですが…。
埼玉県川口市の北東端に位置する東川口駅周辺は、一九七三年にJR武蔵野線が開通してから急速に宅地化が進みました。二〇〇一年三月には東京地下鉄南北線と直通運転する埼玉高速鉄道の駅もでき、駅前の整備が進んでいます。一帯の人口は約五万人。隣接するさいたま、越谷両市も商圏に入ります。
南北を貫く「けやき通り」に沿って各スーパーが並んでいます。ダイエー、マルエツの二店が昨年から二十四時間営業に。コモディイイダ、今年六月開店の西友も午後十一時までです。この一年でスーパーの営業時間は軒なみ変化しました。
「サンマ四匹三百円」といった値札に目を奪われながら、消費者の声を聞きました。
「買い物は主に昼だから、営業時間は関係ない」と西友から出てきた子連れの若い女性。「これまで閉店間際にお総菜の安売りが始まったけど、今は午後八時から深夜にかけてになった。遅くまで働いているので、得した気分よ」と語る自営業の女性(64)もいます。
スーパーの前で営業する初老の商店主とは、かなりの長話になりました。
「どの店も競い合って時間を延長してきた。でも、売り上げは伸びていないだろう。狭いコンビニと違い、大きなスーパーを夜中開けておくのは経費がかかり、資源の無駄だ。スーパーの店長も『帰宅が遅くなった』ともらしていた。つぶれる店も出てくるよ」
ところで、なぜ最近になって営業時間の延長が相次いでいるのか―。中央大学経済学部の八幡一秀教授に聞きました。
法的には、大型店舗の営業時間などを規制していた大規模小売店舗法(大店法)が二〇〇〇年に廃止され、大規模小売店舗立地法(大店立地法)が施行された影響が甚大だといいます。新法の下、売り場面積千平方メートル超の大型スーパーなども、自治体に届け出るだけで営業時間を延長できるようになりました。
「今年に入ってからも、大手スーパーの売り上げは伸びるどころかマイナスです。営業時間延長は収益増が目的で、消費者のニーズではありません。このままでは、ますます米国型、(出来合いの食品中心の)“ファストフード型”の消費社会になる。欲しい物を買いに行くのではなく、売っている物を買わされる―。商業本来の姿ではありません」
欧州諸国などでは二十四時間営業の方が珍しく、休日に店を閉める国もあります。それでも生活は成り立っています。「店の営業時間には、長時間労働など、その国の働き方の違いが表れます。どちらが人間的なのか、利便性とは何なのかを考えてみるべきでしょう」と八幡教授は強調します。
埼玉労働局労働基準監督部が昨年第三・四半期に実施した自主点検結果によると、県内に本社機能を置くスーパー十社二百九十一店舗のうち、一カ月四十五時間超の時間外労働となっているのが三割近い七十九店舗、八十時間超が八店舗もありました。深夜営業はスーパーで働く人たちにも深刻な影響を与えています。
高校から幼稚園までの四人の子どもを育てる女性(42)=川口市木曽呂=は「二十四時間営業は正常じゃない。でも、子どもは夜中に『欲しいから買ってきて』と言う。『いつでも店は開いている』という感覚が子どもにも及んできていて恐ろしい」と口にします。
けやき通りで酒屋を営む新井正治さん(48)は、個人商店にも長時間営業が広がっている現状を嘆きます。
「今年に入って半日も休めた日はない。政治家や役人は『中小企業のために』と言うが、規制緩和とか、現場を見ないで物を言っている。これでは人間的な生き方ができなくなっていく。われわれ小売業を含め、週に一日くらいは休める国にしてほしいものです」