2004年9月11日(土)「しんぶん赤旗」
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厚生労働省は十日、二〇〇四年版「労働経済の分析」(労働経済白書)を発表しました。副題は、「雇用の質の充実を通じた豊かな生活の実現に向けた課題」です。
それによると、経済社会の変化として、企業による業務の外部委託(アウトソーシング)が増加した結果、労働者派遣事業など事業所むけサービスが急速に拡大していると指摘。派遣労働者は、一九九五年度の六十一万人から〇二年度には二百十三万人に増加したことをあげています。
賃金は、九七年以降、下落傾向で賃金の格差は拡大傾向にあるとし、労働時間は短い労働者と週六十時間以上働く労働者がともに高まり分散化していること、仕事による疲れやストレスを感じる労働者が増加し、雇用不安も高まっていることをあげています。
また、仕事に対する満足感は長期的に低下傾向にあることから、満足感を左右する仕事のやりがい、賃金、労働時間など「『雇用の質』の充実は喫緊の課題」と強調しています。
白書は、そのために意欲と能力を発揮することが課題であり、企業活動の成果を労働者に適切に配分し、成果の配分に納得できる賃金制度のしくみを構築していくことが重要と指摘。また、持続的な生産性の上昇を目指すためには人員の削減ではなく、経営効率の改善や労働力の人的能力の向上などにとりくむことが重要とし、企業の即戦力志向の風潮を批判しています。職業能力の形成には長期的・継続的な視野が必要と強調し、あまりに短期に成果を求めたり、自ら育成せずに単に外部に人材を求めるようなことが進めば、社会全体として人材を蓄積していくことができなくなると危ぐを表明しています。
白書は、賃金水準や世帯収入の低下と格差拡大、正社員の異常な長時間労働の進行と短時間労働者の増加、仕事による精神疾患の増大など、かつてない労働条件・環境の悪化を指摘しました。背景には、リストラによる正社員の減少と、パートや派遣・請負という低賃金で不安定雇用の増大があります。
これらの現状について白書は、企業による人材の即戦力志向をいましめ、若年労働者を念頭に長期雇用の重要性に言及しました。しかし、正社員以外のパートや派遣・請負など不安定雇用の増大をさす「多様な働き方」を前提にしたもので、「生産性の向上」を目的にしています。
労働者の雇用の安定や異常な長時間労働を是正する視点はありません。これでは、白書が指摘した問題点の真の解決の道筋は見えてこないでしょう。大切なのは、雇用・労働条件を悪化させてきた企業の社会的責任を問う視点をきちんとすえることです。
畠山かほる記者