2004年9月10日(金)「しんぶん赤旗」
日本で初めてBSE(牛海綿状脳症)感染の牛が確認されてから丸三年。政府の食品安全委員会は、BSE全頭検査の対象から生後二十カ月以下の若い牛を除外することを認める中間報告をまとめました。「食の安全と安心」を願う国民をよそに、いまなぜ検査基準の緩和に踏み出したのでしょうか。
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報告は「若い牛を(全頭)検査の対象から除外しても、BSE感染のリスクを高めることにはならない」として、事実上、全頭検査の見直しを打ち出しました。
さらに、「二十カ月以下の感染牛を発見することは困難」と、初めて感染検出限界の牛の月齢を盛り込みました。ただ、若い牛でも感染を判別できる検査方法も開発されており、近く日本での試験運用も始まる見通しだとの報道もあります。
実は全頭検査からの若い牛の除外は、アメリカから強く迫られてきた問題でした。日本に対し検査抜きの輸入再開を繰り返し要求してきました。
この背景には、十一月の大統領選挙を前に、輸出再開を政府に求めるアメリカの畜産農家や食肉業界の圧力があるとの指摘もあります。
では、輸出再開をねらうアメリカのBSE対策の実態はどうでしょうか。食肉処理されるのは年間約四千万頭。「生後間もない牛を検査してもBSEを発見できない」と全頭検査を拒否し、生後三十カ月以上の牛しかBSE検査の対象にしていません。検査が実施された牛は出荷頭数のわずか0・06%にすぎません。生後三十カ月未満の牛は危険部位の除去もされずに流通している実態があります。
「検査体制は科学的に万全」と早期輸入再開を強く求める米農務省ですが、その足もとから“体制に不備あり”と警告を受ける始末です。農務省の監察官が、今年七月に議会下院に提出した報告書は次のように指摘しました。
二〇〇一年十月以降の約二年半で合計六百八十頭もBSE感染が疑われる牛がいたにもかかわらず、四分の三以上が検査を受けていなかった―。
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アメリカのBSE対策は大きく立ち遅れています。
厚生労働省などは、米国産牛肉の輸入再開に向けて手続きに入ったとされます。アメリカ側からは最大の輸出国である日本への「解禁」圧力がさらに強まることも予想されます。
しかし、事は国民の命にもかかわる重大な問題です。アメリカの圧力で全頭検査などの体制がゆがめられれば、食の安全に対する国民の信頼は崩れかねません。
BSE問題で消費者の意見をまとめ行政への要請などを行ってきた全国消費者団体連絡会事務局長の神田敏子さんは話します。「牛肉の輸入再開の動きのなか、まずアメリカありきで安全をないがしろにしてはならない。消費者の食肉の安全に対する不安がなくなっていないもとで、検査基準の緩和はいけないし、全頭検査など今の体制は継続するべきです。また、BSEの検出限界とされる二十カ月齢以下の牛の検査法の開発など研究レベルの向上が急がれます」
全頭検査 牛がBSEに感染していないかどうかを食肉処理場などで一頭ずつの牛の脳の一部を取り出して行う検査。BSE感染が初めて見つかった二〇〇一年十月から始まり、危険部位の除去と合わせ、不十分ながらも「食の安全と安心」の確保に貢献してきました。