2004年9月7日(火)「しんぶん赤旗」
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病気になってもお金のことが心配で病院に行けず、手遅れになって命を落とす――医療制度の改悪が相次ぐなか、あってはならない事態があとを絶ちません。こうした実態を明らかにした患者調査が、社会福祉研究交流集会(八月二十八、二十九日)で注目されました。
調査結果を報告したのは、長野県民主医療機関連合会・医療ソーシャルワーカー委員長の赤坂律子さんです。
調査は、長野県内の五つの病院と診療所を対象に実施しました。医療ソーシャルワーカーが相談を受けた患者のうち、「生存権をおびやかされ、治療の継続にさまざまな困難が生じている」事例を「受療権侵害事例」としてまとめたものです。二〇〇一年からの三年間で五百八件にのぼりました。
たとえば、二〇〇三年に悪性リンパ腫(しゅ)で入院した独り暮らしの男性(55)の場合。自動車販売会社で十数年働いていましたが、五十歳のときに突然リストラされました。その後、運送会社で大型トラックの運転手となりましたが、不況で仕事が減り、入院する一年くらい前はほとんど仕事がありませんでした。
せきこんで苦しいなど、病気の兆候は二、三年くらい前からありました。しかし、近所の開業医に大学病院での検査をすすめられてもお金のことが心配で病院には行かず、せきどめの薬を飲んでしのいでいました。
具合が悪くなり病院に行ったときには、肺の腫瘍(しゅよう)が心臓や肝臓にまで広がって、心臓の左心房の90%を腫瘍が占めているという状態でした。入院して半年後に亡くなりました。
「お年寄りの患者負担引き上げや、健康保険本人への患者三割負担の導入など、医療の改悪がすすむなかで、具合が悪くても受診できない、治療が必要でも医療費が払えないなど、深刻な事例が増えています」と赤坂さんはいいます。
赤坂さんによると、〇一年からの三年間相談件数が一番多かったのは、どの年も五十―六十歳代の患者でした。内容はリストラや倒産で失業、そこに追いうちをかけて病気になり、医療費が支払えなくなるというものです。
老人医療制度が改悪されて患者負担が増えた〇二年からは、七十歳以上の相談が増えました。年金があっても、家族の失業で生活費が足りなくなり、高齢者本人が病気になっても年金を医療費にまわせないという実態も調査で浮かび上がりました。
赤坂さんは、「患者さんの相談援助にあたっていて、『医療保障のある民間の生命保険に加入している』と聞くと、情けないことですがほっとしてしまう現実があります。公的な医療保険制度が、国民の命と健康を守るという本来の役割を果たしていないことが、本当に大きな問題だと思います」と語っています。秋野 幸子記者
◆子宮がんで入院した女性(59)。家族は糖尿病の夫(63)と知的障害がある息子(29)。
入院する前もお金に困って、市役所の生活保護の窓口に行ったが、「息子がまだ若いのだから働いてもらえ」と追い返された。具合が悪くても医療費を支払える予定がたたないため、がまんしていて、病院を訪れた時はすでに手遅れだった。2カ月後に病院で亡くなった。
◆脳こうそくで入院した男性(46)。家族は妻、中学2年生の息子、小学3年生の娘。
理髪店を自営していたが、アトピー性皮膚炎が悪化してやむなく廃業。以後、体調がすぐれず職にもつけず無収入。月8万円の妻のパート収入で一家4人が生活していた。国保料が払えず、30万円ほどの滞納があった。
脳こうそくを発症後、医療費の支払いができずに生活保護の申請をしたが、車を所有していることがさまたげとなって、申請が受理されなかった。しばらくして別の病院に転院するが、転院先で亡くなる。