2004年9月7日(火)「しんぶん赤旗」
BSE国内対策の見直しをすすめている内閣府の食品安全委員会のプリオン専門調査会が、六日まとめた報告書は全頭検査から生後二十カ月以下の若い牛の除外を容認したものになりました。消費者の全頭検査継続の願いにそむくものです。
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危険部位の除去と全頭検査で不十分ながらも担保されてきた「食の安全と安心」を揺るがす問題です。
重大なのは、報告書が、「二十カ月齢以下の感染牛を発見することは困難」と、初めて病原検出限界の牛の月齢を盛り込んだことです。このため専門調査会の会合では、専門委員から結論部分の「生後二十カ月齢以下」という表現をめぐって「一人歩きする」と強い懸念がでました。
報告書は、全頭検査からの若い牛の除外理由を「検出限界以下の牛を検査対象から除外するとしても、危険部位除去をすればリスクが増加することはない」としています。
そもそも全頭検査からの若い牛の除外は、米国産牛肉の輸入再開をめぐる日米協議の中で、米国から迫られていた問題でした。
生後三十カ月以上の牛しかBSE検査の対象にしていない米国ブッシュ政権は、日本に検査抜きの輸入再開をくりかえし要求してきました。日米協議の専門家会合では、食品安全委員会のプリオン専門調査会での結論が出る前から、全頭検査に限界があるとする報告書を作成するなどしました。米国の圧力に屈する形で日本の全頭検査体制の見直しがすすめられてきたのが実態です。
食品安全委員会は、先月、東京と大阪でBSE対策をめぐる意見交換会(公聴会)を開きました。消費者団体の代表から「全頭検査を継続すべきだ」「アメリカからの牛肉輸入再開のために国内対策の見直しをおこなうのはおかしい」などという声が相次ぎました。
しかし、今回の全頭検査緩和を容認する報告書は、そうした消費者の疑問や意見を反映したものでも、正面から答えたものにもなっていません。
外電によると、専門調査会開催前の八月二十六日、米国のベネマン農務長官は「全頭検査は必要ないとする米国の立場を日本が受け入れた」と語ったといいます。
食品安全委員会は「米国からの牛肉輸入再開と関連づけてとらえられている向きがあるが、輸入再開と直接関係のあるものではない」などと意見交換会で説明してきました。報告書はこれとは正反対のことがすすんでいたことをあらためて浮き彫りにしました。
全頭検査緩和と米国産牛肉の検査抜きの輸入は、消費者の不信と不安を広げるものでしかありません。
宇野龍彦記者
全国食健連(国民の食糧と健康を守る運動全国連絡会)の坂口正明事務局長
これまでおこなわれてきたBSE(牛海綿状脳症)についてのリスクコミュニケーション(危険度への意見表明)でも、「全頭検査は緩和すべきでない」というのが消費者の声です。これを「二十カ月齢以下で異常プリオンの検出は不可能」だとして「科学」の名において無視することは許されません。
ましてやアメリカの研究者グループが、若い牛でも感染を検出できる技術を開発したという報道もあるとき、なぜあえて検査対象を狭めるのでしょうか。
アメリカ政府から、十月末までに輸入再開の要求が来ているとの報道があります。今回の食品安全委員会の方向は、なぜか符節が合います。ブッシュ大統領の再選に向けて一つでも点数を稼ごうということのようですが、国民の食の安全よりアメリカ優先が背景にあることが思われるのは言語道断です。
食品の安全という意味はもちろん、BSE根絶のためにも、BSE検査は、もっと若齢牛でも検出できる検査方法を開発・採用することこそ科学の名に値するのではないでしょうか。
関西地方で活動する市民団体「BSE市民ネットワーク」の高谷順子代表
私たちが関西のと畜場を見学して、現場の方から話を聞きましたが、みなさんは“苦労して全頭検査体制を築いてきた。牛肉の信頼が崩れるのが心配だ。全頭検査を続けていきたい”と言っていました。
危険部位の除去といっても、一〇〇%完全にできないと、食品安全委員会専門委員会のまとめでものべられています。BSE病原体は、若い牛にも潜伏しています。全頭検査とのダブルチェックは絶対に必要です。これはBSE専門家であるアメリカのプルシュナー博士も強調していることです。
二十カ月以下ではBSEが発見できないというなら、新しい検査方法を採用すればよいのです。いまは牛を解体しないでも検査でき、血液で検査する感度がよい方法が開発されています。
BSEチェックが甘いアメリカには病原体をもった牛がいると思われます。このまま輸入を再開すると、牛エキス入りブイヨンや離乳食などの加工品にもBSE病原体が入り込む恐れがあります。
日本人は93%がBSEの病気にかかりやすい遺伝子タイプだという厚労省研究報告があります。食品安全委員会が全頭検査を放棄することは、アメリカなどの政治的圧力に屈したと思わざるをえません。