2004年9月3日(金)「しんぶん赤旗」
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「教育の場で強制という手段をとることは軍国主義の時代に逆戻りする」――今年の都立高校の卒業式で「君が代」斉唱時に起立しなかったため定年後の再雇用を取り消された元教員九人が、その撤回を求めている裁判の第一回口頭弁論が二日、東京地裁で開かれました。原告の二人が、生徒の前に立てなくなったことへの悔しさをにじませながら意見陳述しました。
都教委の異常な攻撃に反対する裁判闘争やさまざまな運動が広がり、この日も二百人を超える支援者がかけつけました。
原告の元教員九人は、今年四月以降、嘱託や非常勤講師として再雇用が内定し、ひきつづき教壇に立てるはずでした。しかし「君が代」斉唱時に不起立だったため「勤務成績が良好でない」などとして、新学期直前に再雇用を取り消され事実上解雇されました。六月に東京都を相手取り、解雇撤回と損害賠償を求めて提訴しました。
意見陳述で近藤光男さん(61)は、教員生活三十八年でこれまで起立・斉唱を拒んでこなかったが「『強制』という方法に反対する意思を表すため、教育の理念を守り続けるために立たなかった。それだけで嘱託の道を閉ざされ、生活権を奪われた」と主張。「国を愛する心を国歌や国旗によって強制するのは過去の歴史が示しているように大きな間違いを犯すことになる」「これらの暴挙を認めるなら日本の教育はその理念を失い国際社会から孤立してしまう」と述べました。
前川鎮男さん(61)は「新年度の授業の持ち時間も決まり授業準備をし、どんな生徒たちと出会えるか期待していたにもかかわらず突然に教職を奪われてしまった」と怒りを込めて陳述しました。
都教委の「日の丸・君が代」強制に「これ以上黙っていれば学校は完全に自由を失う。自由と自主が尊重され、一人ひとりの生徒を大切にする教育を守り抜くために私にできることは不起立しかなかった」と語りました。生徒からもらった「もっと先生の授業を受けたかった…またあおうね」というメッセージを紹介し、「生徒たちの待つ教室に戻ってともに過ごしたい」と訴えました。
東京地裁には同日、原告の教え子など支援者が傍聴を希望して集まりました。終了後の報告集会で参加者から「日本の国民全体のたたかいとしていく必要がある。横に手を広げていこう」との発言がありました。
東京都教育委員会は昨年十月、卒業式・入学式などでの「日の丸・君が代」の実施方法をこと細かく定めた通達を出し、教職員には職務命令で「君が代」斉唱時に起立して歌うことを強制しました。
そして不起立などを理由に教職員約二百五十人を処分。うち再雇用が内定していた九人の採用を取り消し、事実上解雇しました。被処分者にたいしては「再発防止研修」を実施しました。また、多くの生徒が不起立だった学校の教職員六十七人を「厳重注意」などにしました。
こうした異常な「日の丸・君が代」の強制に対して、都立学校の保護者らが署名行動に立ちあがるなど、批判が広がっています。
処分された教職員のうち約百八十人が都の人事委員会に不服審査請求し、審理が今月にも始まります。解雇された九人は撤回を求めて提訴。今年一月と五月には計三百四十五人の教職員が「国歌斉唱義務」がないことの確認を求めて提訴しています。