2004年9月3日(金)「しんぶん赤旗」
【モスクワ=田川実】旅客機の同時爆破、地下鉄駅前での自爆事件に続くロシア・北オセチア共和国での学校占拠―。プーチン・ロシア政権は犯人グループとの交渉など生徒ら人質救出のため全力を挙げる一方、「国際テロとのたたかい」を改めて国民と国際社会に呼びかけました。しかし、一九九〇年代初めからのチェチェン紛争が事件の背景にあり、事態は単純ではありません。
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ロシア大統領府によると、学校に立てこもる武装勢力は、南部チェチェン共和国での連邦軍の軍事行動の停止と撤退などを要求しています。基本的にはチェチェン民族の独立を目標にしているとみられます。
その一方で、犯人らは、国際テロ組織アルカイダとのつながりが指摘されるチェチェンのバサーエフ野戦司令官の一派だとの報道もあります。旅客機、地下鉄の両事件でもアルカイダ系とされる組織が犯行を声明しました。ロシア政府も「武装勢力は国外から支援を受けている」と主張しています。
プーチン大統領は八月三十一日の仏独首脳との会談で、国連内に対テロ機構を創設するよう改めて提案しました。テロ資金源の根絶、各国間の情報交換の促進などは、国際的に不可欠の課題です。
イワノフ国防相は一日、「ロシアは本質上、姿も戦線も見えない相手から宣戦布告された」と発言。閣僚として初めて「戦争」という言葉を使い、危機感をあらわにしました。
国営ラジオ局マヤークのこの日の番組「対話」には、聴取者から「もう何年も前から戦争は続いている」「(旅客機爆破に使われた)爆薬ヘキソーゲンや武器がなぜ簡単に犯人らの手に入るのか」など、政府の不手際に怒る声も相次ぎました。
九九年九月のロシア軍による攻撃後、チェチェンからモスクワなどに避難、移住してきた人々も少年少女たちを人質にする行為や自爆事件に、胸を痛めています。
モスクワの北隣トベーリ州に住む数千人のチェチェン難民の権利擁護団体のアルサマコフ代表は、「武装勢力の行為は私たちの生活になんらプラスにならない」と批判。一方で「(学校を占拠した)武装勢力は和平を求めているだけ」と話す人もいます。アルサマコフ氏も「チェチェンは国際テロ問題ではなく、ロシアとチェチェン間の民族対立だ」と主張します。
同氏によると、旅客機事件の二日後、住民登録がないとしてチェチェン難民百人の一斉拘束がありました。「住居も仕事も保障すると政府に言われて移住してきたのに、不当な仕打ちが続いている」「チェチェンのロシア兵による住民への人権侵害も裁かれていない」とアルサマコフ氏は憤ります。
チェチェン問題の根底にはチェチェンの人たちが旧ソ連のスターリン時代を通じて民族抑圧を受け、ソ連崩壊後も独立を認められずにきたことへの不満の蓄積があります。プーチン政権も強硬姿勢をまったく変えていません。そのことによって民族的憎悪が拡大するという悪循環に陥っています。
しかし、少年少女を人質にとり、一般市民を殺傷するというやり方は、いかなる理由があろうと許されるものではありません。
こうした悪循環の背景には“テロとのたたかい”のためとして一方的に軍事力行使するブッシュ米政権の戦略が世界を覆い、そのもとでテロが拡大していることも見逃せません。
チェチェン紛争 ロシア連邦を構成する二十一の共和国の一つであるチェチェン共和国が、ロシアからの独立を求めて続いている紛争。独立派が一九九一年に独立を宣言したのに対し、ロシアは九四年と九九年に軍事侵攻。九九年の侵攻で独立派を首都グロズヌイから排除し、親ロシア派のカディロフ政権を樹立しました。その後、独立派によるテロが続発。二〇〇二年十月のモスクワ劇場占拠事件や、今年二月と八月のモスクワ地下鉄テロ、五月のカディロフ大統領暗殺、八月の旅客機爆破などの事件が起きています。