日本共産党

2004年8月31日(火)「しんぶん赤旗」

新たな胎動と課題

アテネオリンピック


 第二十八回オリンピック・アテネ大会は二十九日、十七日間の幕を閉じました。二十一世紀最初の夏季五輪が見せた、世界の新たな胎動、日本勢の活躍、今後の課題も含めて振り返りました。

 アテネで勝又秀人記者


日本勢の活躍

「選手が主役」流れ加速

 二十五日、午前零時をすぎたオリンピックスタジアム。五万人近い観客の目は、聖火台に近いフィールドの一角に注がれていました。

 女子棒高跳びのエレーナ・イシンバエワ選手(ロシア)が、世界新記録の高さにまで引き上げられたバーを前に表情を引き締めていました。

 4メートル91。四年前のシドニー大会でステイシー・ドラギラ選手(米国)が出した五輪記録を31センチ上回ります。観客は助走をせかすかのように、手拍子のリズムを徐々に早めます。

 勢いよく走り出したイシンバエワ選手は、ポールの反動の力で一気に宙に高く舞い上がります。ポールが地面とほぼ垂直になった瞬間、右手一本に最後の力を込めてバーをひらりとかわしました。

 自身の世界記録を1センチ更新。今大会の陸上競技で唯一の世界新記録は、スポーツの力強さと魅力を余すことなく人びとの心に訴えかけました。

 今大会は新種目となった女子レスリングなどもふくめて、全体的にレベルの高い試合が展開されたとはいえ、記録のうえでは低調でした。

 また、米国が前回より金メダルを五つ減らす一方で、競泳女子二百メートル背泳ぎを制して初の競泳金メダリストを出したジンバブエの例のように、小国の奮闘ぶりも目立ちました。

 IOCのロゲ会長は、アジア勢の健闘を口にしました。中国は金メダルの獲得数で前回シドニーの三位から二位に浮上。それ以上に各国取材団の話題を呼んだのが、前回大会よりも金メダルで三倍、メダル総数を二倍に伸ばした日本の活躍ぶりでした。

 国の冷たいスポーツ行政のもと、選手や競技団体の血のにじむような努力や創意工夫抜きには、今回の結果は語れません。

 オリンピック評論家の伊藤公さんは「選手かたぎが確実に変化している。選手がのびのびとしている。昔のように監督やコーチに発言できなかった時代とは違う」と話します。

 シドニー後、日本のスポーツ界が選手のプロ活動を認めたことを受けた選手の自立の動きは、「選手が主役」の流れを推し進めています。

 今回、チーム競技がふるわなかった背景には、日本のスポーツをめぐる企業の支援態勢の変化があげられます。

 スポーツデザイン研究所の上柿和生代表は「企業はチームを保有するよりも、メダルが取れそうな二、三人の有力選手の面倒を見るほうが費用がかからない。今後も個人競技に支援が集中する傾向はさらにすすむ可能性がある」と話します。

 競技力の安定的な向上をはかるためには、国による支援の充実が不可欠です。

ドーピング

選手自身が「反対」と声

 アテネの街は、熱狂の裏で冷ややかな目が広がっていました。

 市内の高校で市民がスポーツを楽しんでいる光景を取材中のこと。日本の金メダル数をたずねてきた中年男性が、すかさずこう語りました。

 「ドーピング(禁止薬物使用)だろ? ケンデリスみたいに」

 ケンデリス選手はドーピング検査を受けずに今大会の出場資格を失ったギリシャの英雄。シドニー大会陸上二百メートル覇者の疑惑の欠場は、ギリシャ人の心に深い傷を残しました。街中では「(選手は)みんなドーピングさ」と語る人が少なからずいました。

 さい疑の目は競技者にも向けられました。米国の反ドーピング機関から疑惑をかけられている女子走り幅跳びのマリオン・ジョーンズ選手にたいし、ブーイングを送る観客もいました。

 メダルをはく奪された選手はすでに七人。シドニーの六人を上回ります。五輪期間中にドーピング違反者は二十四人に達し、ケンデリス選手の疑惑で始まった大会は、最後も男子ハンマー投げで金メダルをはく奪されたアヌシュ選手(ハンガリー)の疑惑で揺れました。

 スポーツの公平性が根底から疑われている現状は、オリンピックそのものの危機といえます。

 オリンピック憲章が「スポーツにおけるドーピングと率先してたたかう」と掲げている意味は特別に重いものがあります。IOCが今大会でドーピング検査の強化をはかり、その姿勢を示したことは重要です。

 閉会式でIOCのロゲ会長は「選手は人びとの模範となる。故郷に帰って、クリーンなスポーツを促進してほしい」と呼びかけました。

 女子マラソンのポーラ・ラドクリフ選手(英国)のように、禁止薬物使用反対の声をあげる選手も出てきています。フェアプレー精神と高潔な人間性に満ちたオリンピックの魅力を守り、発展させるために、スポーツ関係者の意欲的なとりくみが不可欠です。



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