2004年8月30日(月)「しんぶん赤旗」
「アニメ業界の、こんな不公平は絶対に許しておかない」。強い調子で“告発”の手記を寄せてくれたのは、アニメーターの青井スミレさん(27)=東京都。「ゆうPress」(7月19日付)に登場してくれた人です。その後、恐れていた右腕のけんしょう炎がひどくなり、描くことができなくなりました。スミレさんの手記を紹介します。
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八月初めごろから右手がけんしょう炎ではれていました。それでもアニメの納期に間に合わせるために、痛みをがまんして無理に描いていましたら、手が動かなくなってしまいました。
かわりに左手を使ってみました。はしは使え、少し訓練すると字と絵がなんとか描けました。
動画は大変精密さが要求される仕事なので、右手の健康が損なわれた今となっては、もう続けられません。「動画チェック」の仕事や他業種に商売替えをしなければ生活できません。
これはこの仕事を始めるときから覚悟していたことで、残念さやショックの気持ちはありません。「くるべきときがきたな」という感じです。
でも、どうしても許せないことがあります。大もうけしているはずのアニメ業界が、それを支える人材を使い捨てにすることについてです。
アニメーターは、サラリーマン以上に働いても給料はそれよりずっと安く、待遇は労働基準法違反レベルです。かといって、アニメが生み出す利益が少ないわけではなくまったく逆で、日本を支えるほどのお金を生みだしています。
アニメーション関連のイベント会場を例にとってみると、そのぜいたくさは一枚二百円の動画単価からは想像できない、気分が悪くなるような内容です。
都合よく労働力を吸い上げて、残りかすはポイ捨てというわけです。人をばかにするのも程があります。「今に見ていろ、こんな不公平は絶対に許しておかないぞ」と思っています。
8月2日 深夜まで仕事。締め切りなので、手が痛くなるまで動画五十枚を描く。
3日 右手はれて激痛。近くのA整形外科に。レントゲンを撮ったものの「異常なし」。
5日 耐え切れない痛みでB病院へ。腕を三角きんでつる。
10日 手が丸く膨れあがって破裂しそう。「手の外科」専門のC外科医院に。手術を勧められたものの設備が無く、さらに病院探し。けんしょう炎はこれで三回目。「この仕事潮時」と職種替えが頭をよぎる。
11日 別の「手の外科」専門医院で手首のカーブに沿った添え木を当てて落ち着く。
15日 五十枚描いて収入一万円。でも、医療費などで五万円。二カ月先まで仕事なし。
青井スミレさんのプロフィル 高校卒業後、「アニメーターになりたい」と親の反対を押し切って大分県から上京。2年前、青井さんが代表になり、4人でプロダクションを結成。生活できる収入を得るまでになりました。
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アニメ産業では、末端で支える動画(ポイントからポイントまでの絵)や原画(動きのポイントの絵)を描くアニメーターの最低生活が保障されていないのにアニメのゲーム化権や商品化権などの版権を持つテレビ局や大手製作プロダクションが大もうけしています。
二〇〇二年の映画やビデオ、テレビのアニメ制作の売り上げは、二千百三十五億円で一九九〇年の倍に成長しています(グラフ)。
日本製アニメのアメリカでの市場規模は、二〇〇二年で四十三億五千九百十一万ドル、約五千二百億円(日本貿易振興会調べ)。日本からアメリカに輸出した鉄鋼製品額の三倍以上となり、日本経済を支えるお金を生みだしています。
一方、アニメーターが動画一枚を描く単価は百六十円から二百円。原画は一枚三千円に過ぎません。動画は経験のある人でも月三百枚から五百枚を描くのが精いっぱい。アニメーターの収入は月数万円から十万円を得るのがやっとなのが実態です。
滑らかな動きをつくるには、毎秒二十四コマの動画が必要です。こうした手間のかかる作業も、賃金の安い韓国や中国、フィリピンへ。東南アジアの動画単価は日本の半値以下です。「産業の空洞化」が日本のアニメーターの仕事を奪い、生活できない状況をつくりだしています。
松下電器のほぼ100%出資でつくった「デゼル」(本社東京都)が、韓国と中国の安い賃金で動画をつくらせたように、大企業がアニメを「二十一世紀の産業」と、大もうけを狙っています。 菅野尚夫記者
Q 食後に甘いものを食べないと落ち着かず、ストレスを感じます。とくに仕事が忙しかったり、精神的に追いつめられると量が増えるので、出費がかさみ、健康にもよくないのではと不安です。やめられずに仕事に集中できません。
(ヒロミ 28歳。東京・練馬区)
A 脳がストレスを感じたとき、甘いものをとると、アルコールと同様に、手っとり早く満たされた気持ちになります。
コレステロール値が高くなったり、体重が増えすぎたりということがないなら、少しぐらい自分に許してあげてもいいのではないでしょうか。
「やめなくては」と思うと余計に食べたくなってしまいます。せっかく食べるのなら、味わって食べましょう。
出費のことや「体に悪い」と考えるところをみると、あなたはきちょうめんなのかもしれません。負い目に感じて自分を責めすぎると、自信をなくして、悪循環になります。
また、ストレス解消法として、手っとり早い「甘いもの」だけでなく、選択肢を増やすことも考えましょう。紅茶やアロマ、運動でもいい。生活に広がりが出るし、人生も豊かになります。
気になるのは「仕事に集中できない」ということです。甘いもののことが頭から離れない、ミスが多い、頭がボーっとしてまとまらないということであれば、軽いうつ傾向かもしれません。
その場合は抵抗はあっても、早めに受診する方が早く治ります。
あまり自分に課題をかさずにやわらかく生きてもいいんじゃないでしょうか。
精神科医 上村 順子さん
山口大学医学部卒。代々木病院、松沢病院などで勤務。99年からめだかメンタルクリニック院長。