2004年8月27日(金)「しんぶん赤旗」
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佐賀地裁が二十六日、国営諫早湾干拓(長崎県)の工事差し止め命令を下したことに、自殺者も相次いでいる漁民たちは「希望の光が見えた」と喜びの声をあげました。「あと何人自殺したら工事を止めますか」という命の叫びを裁判所が受けとめた瞬間でした。
西部総局・山本弘之記者
「うれしくて泣いています」「万歳、万歳を何回いったかわからない。最高の日だ」。佐賀地裁前には、苦しい中たたかってきた漁民の姿がありました。感極まった興奮に包まれています。
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原告団長の川崎直幸さん=佐賀県川副町=は「歴史的勝利の決定だ。漁民と市民が一体になってがんばってきたかいがあった」と話しました。
法廷で、孫娘の写真を陳述書に印刷してのぞみ、「かつての宝の海、美しい有明海をみせてやれないのが残念だ」とのべ、男泣きに涙をみせた漁民、収穫を心待ちにするノリ網の張り込みの日に、あすの生活費をどうするか苦悩を語った漁民…。
「希望の光が見えた」。大牟田市の松藤文豪さん(47)はいいます。
繰り返す要請行動、上京しての農水省包囲、諫早湾干拓現地前での座り込み、海上デモ…。考えられる限りの行動を尽くしても、「農水省はなにもいうことを聞いてくれなかった。何度も挫折しそうになりました」。
「夜逃げするか、死ぬしかないところまで追い込まれ、しかし、家族がいる。ノリをとるしかない。それには宝の海をとりもどすしかなか。やっと結果が出た。苦しい中、続けてよかった」と語ります。
二〇〇〇年のノリ大凶作から、四年目をむかえ、魚も貝もノリ養殖も漁業がたちゆかなくなり、タイラギ(二枚貝)漁師もノリ漁民も自殺が相次ぎ、借金苦から母親と心中を図った痛ましい事件までおきています。
仮処分決定は、その苦しさの中に「これからもやれるぞ」の新たな力を吹き込みました。
福岡県大川市のノリ漁民、古賀正八さん(55)も「暗やみの中にあかりがあれば、前に進める。もう調査ではなく、ただちに開門し、堤防の撤去だ」といいました。
今回の決定は、漁民、市民、弁護団が力をあわせ、全国の世論・たたかいと連帯して、みずからかちとったものです。
提訴に向けて準備した二〇〇二年は、自民党と小泉内閣が「有明海再生特措法」案を提案し、諫早湾干拓には手を付けず、有明海再生には役に立たないばかりか有害な漁業整備事業の補助金引き上げを「アメ」にして幕引きを図りました。
そのとき、あくまで「原因は諫干だ。工事を止め、水門を開けろ」と同年十一月に提訴した「よみがえれ有明訴訟」のたたかいは、挫折せずにがんばる漁民の支持を得ました。仮処分と同時に提訴した本訴(裁判)の原告は漁民百七十三人、市民六百八十四人、あわせて八百五十七人に達しています。
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ことし三月末の農水省包囲行動では、タイラギを海に潜って採るときの潜水服のヘルメットを持っていき、タイラギ漁そのものができない無残さ、自殺したタイラギ漁師の無念さを無言で訴えかけました。
佐賀地裁は、干拓工事と、有明海の環境悪化、漁業被害との因果関係を認めただけではなく、損害の回復のためには「事業の再検討、必要な修正」が肝要だと指摘しました。
裁判所が受けとめた漁民の訴えを、農水省はどう受けとめるのか。工事は、仮処分決定という法的拘束力で止まります。しかし、漁民、住民が求めているのは、それだけではなく、有明海再生です。
馬奈木昭雄弁護団長は訴えます。
「被害の回復を農水省がこれ以上さぼることは許されない。公共事業というのは、漁民や住民のためのもの。決めるのは、農水省ではない。漁民や住民の声を聞かなければならないのははっきりしている。全国各地の国の悪行とのたたかいと連帯して、宝の海をとりもどそうではありませんか」