2004年8月16日(月)「しんぶん赤旗」
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深刻な不況、雇用状況のもとで、生活保護の果たす役割が大きくなっているなか、政府・厚生労働省が相次ぐ制度改悪を計画しています。今年度から始まった「老齢加算」の段階的廃止に続き、来年度からの「母子加算」の廃止、さらに国庫補助率の引き下げまでねらっています。江刺尚子記者
厚労省は五日、財務、総務の両省と地方自治体の代表で、生活保護の国庫補助率について話し合うための関係者会議を開きました。
現在の国庫補助は、生活保護の給付費のうち四分の三を占めています。残り四分の一は地方自治体が負担します。この国庫補助率の引き下げを提案するための関係者会議でした。ところが、厚労、財務の両省にたいし、地方自治体の代表らは反対を表明。全国知事会の梶原拓会長(岐阜県知事)と全国市長会の山出保会長(金沢市長)は同日、連名で「引き下げが強行されれば、われわれは(生活保護の決定や実施にかかわる)事務を返上する考えだ」と抗議の談話を発表する事態となりました。
これに先立ち、全国十三の政令指定都市でつくる指定都市市長会(会長・松原武久名古屋市長)も、国にたいして意見書を提出(七月二十八日)。「国民生活の基盤を支える基礎的な行政サービスは、その財政責任のすべてを国が負い、経費の全額を負担すべき」だと主張しました。
生活保護の受給世帯は、九十七万世帯(三月時点)と過去最高にのぼっています。受給者は百三十九万人で、国民百人に一人の割合です。
生活保護の国庫補助率引き下げ案は、昨年末、小泉内閣の“補助金一兆円削減”の方針を受けて、厚労省が提示したものです。現行の国庫補助率四分の三を三分の二へ引き下げるという内容でした。これによる国庫補助金の削減額は約千七百億円を見込んでいます。
今回も同様の提案となります。関係者との協議に際し厚労省側は、小泉内閣の「三位一体改革」((1)国庫補助負担金の廃止・縮減(2)地方交付税の縮小(3)地方への税源移譲)の一環としておこなわれるため、国庫補助金の削減分は別途税収として地方へ移る、だから単純な引き下げとは違うといいます。
しかし、「三位一体改革」の初年度だった今年度予算では、国から地方への財政支出は三兆九千億円も削られたのに、移った税源は四千五百億円。削減額のわずか11・5%にすぎませんでした。
そもそも生活保護は、憲法二五条の生存権にもとづき、すべての国民に国の責任で最低限度の生活を保障するための制度です。その趣旨から、最初は国庫補助八割という高率となっていました。それが、中曽根内閣のもとで一九八五年、七割への削減が強行されました。
今回引き下げが実施されれば、それ以来、二十年ぶりの改悪となります。
八五年の補助率引き下げは、自治体窓口で、保護費を減らすための給付抑制や、人権侵害におよぶしめつけに拍車をかけることになりました。
全国市長会の山出会長が「生活保護は人間に最低限の生活を保障するための措置。生存権を保障するものであり、国の責任であるべきだ。(本来なら財源を)百パーセント国がもってしかるべき」(五日、都内の記者会見)とのべるなど、生活保護の国庫補助削減は、地方自治体の厳しい批判にさらされています。