2004年8月4日(水)「しんぶん赤旗」
女性だというだけで昇進や昇給など処遇面で差別を受けたとして、米証券大手モルガン・スタンレーの女性社員三百四十人が同社に損害賠償を求めてたたかっていた訴訟で、女性たちは、同社から和解をかちとりました(七月十二日)。英紙フィナンシャル・タイムズ(七月十六日付)は「これから(女性たちが)差別を告発しやすくなるかもしれない」と述べ、今回の和解は企業に警鐘を鳴らすものだと指摘しています。
中村美弥子記者
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訴訟は、米政府機関の雇用機会均等委員会(EEOC)が女性たちの代理として、二〇〇一年九月にニューヨーク連邦地裁に起こしていたもの。EEOCはこれまで、三菱自動車工業の現地工場、米フォード・モーターなどを訴えてきましたが、ウォール街にある大手証券会社への訴訟は初めてです。
集団訴訟原告団の一人アリソン・シーフェリンさんは、一九八六年にモルガン・スタンレーに入社。債券営業担当として活躍していましたが、昇進差別を受けたとして、九八年に初めてEEOCに申し立てを行いました。申し立て後、同社からさまざまな報復的ないやがらせを受け、二〇〇〇年には解雇されました。
EEOCはシーフェリンさんの申し立てを受け、文書や証言によりモルガン・スタンレー社内の性差別の実態を調査。二〇〇〇年六月、給与、昇進、雇用条件の面で女性社員に対する差別があったと判断を下し、翌〇一年九月、同社を提訴しました。
法廷でシーフェリンさんは、女性たちが置かれていた状況についてこう陳述しています。
「多くの女性社員が、男性の同僚とは異なり、昇給や昇進を認められませんでした。多くの女性が不平等な給与と昇進に失望して会社を辞めていきました。ルールを守る職場を求めて他の企業に転職したのです。女性たちの多くは差別を我慢しています。おとなしくしていれば会社のためになると思い、不平をこぼせばキャリアや人生が台無しになると恐れています」
モルガン・スタンレーは総額五千四百万ドル(約五十八億円)の和解金を女性たちに支払うことに同意しました。和解金のうち二百万ドルは、女性差別をなくすために社内に苦情処理担当を、社外に外部監視員を起用する費用などに充てられることになっています。
しかし、モルガン・スタンレー側は社内に女性差別があったことを一切認めていません。和解に応じたのは、原告側の女性たちが同日、法廷で差別の実態について証言することになっていて、それによって生じるイメージダウンを回避するためだと指摘されています。
EEOCのグロスマン弁護士は、「差別の申し立てを深刻に受け止めるようにとのメッセージが、ウォール街の他の経営者に届くことを望む」と和解の意義を語っています。
今回の訴訟で注目されるのは、シーフェリンさんの申し立てに基づき企業側を調査し、女性たちを代表して証券大手のモルガン・スタンレーを相手にたたかった政府機関EEOCの役割です。EEOCは従業員や求職者に対するあらゆる雇用差別を違法とし、被差別者にさまざまな救済措置を提供しています。また企業に罰則を科すなど法的措置を執行できます。EEOCは性差別問題だけでも、〇二年度に三万件近くを解決してきました。
日本では、男女雇用機会均等法に基づいて調停をおこなう機関がありますが、企業に対する強制力はもたず、差別をなくす有効な役割を果たしていません。訴訟に持ち込んでも、日本では差別の存在を差別を受けた労働者側が証明しなければなりません。強制力のある行政による救済制度、実効性のある事業主への差別防止義務、罰則規定が求められています。