日本共産党

2004年7月19日(月)「しんぶん赤旗」

ゆうPress

ギリギリだらけの青春

アニメーター

“やりがいも生活保障も欲しい”


 世界的に注目を集める日本のアニメ産業は、若いアニメーターたちが担っています。華やかさの裏には、長時間労働と低賃金のきびしい実態が……。プロをめざす若者たちが共同でつくる東京の「フリープロダクション」を訪ねました。 菅野 尚夫記者


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事務所でアニメ制作にあたる左から太田さん、青井さん、乃川さん=東京・練馬

 事務所は、東京・練馬区にあるアパートの一室で、三畳と六畳の部屋。外気温は三十度を超えた真夏日でした。一台のクーラーが必死に冷風を送り続けますが、三人のアニメーターは汗だくで絵を描いています。

 二年前、四人でプロダクションをつくりました。ともに「物作りのプロ」を夢みて、この道に飛び込んだ若者たちです。

 仕事は、アニメーションの原画(動きのポイントの絵)や動画(ポイントからポイントまでの絵)を描くこと。月収は、こなす仕事の量によって違いますが、五万円、十万円の人もいます。

 代表の青井スミレさん(27)は、「アニメーターになろう」と、親の反対を押しきって十年前に上京。楽器会社のOLだった乃川カナコさん(28)はアニメーターになって六年です。原画を描く太田悌記(とものり)さん(23)は、父親に勘当されました。「おやじに『どうだ!ッ』て納得させる仕事がしたい」という太田さん。歯を食いしばっての青春の日々です。


制作費、欧米の1/5

 日本のアニメは世界市場の六割を占めます。しかし、制作は韓国、中国、フィリピンなど低賃金のアジア諸国に発注され、「絵を描く作業の九割は海外」という状況。アニメ産業の空洞化が進み、この十年間、単価は上がっていません。

 また、テレビアニメは欧米の五分の一という低制作費です。千三百万円は必要な三十分枠のテレビアニメに、支払われる制作費用は七百万円から九百万円。そのしわ寄せはアニメーターへ。残業手当や社会保険、ボーナス、有給休暇はほとんどありません。

 日本のアニメーターの平均年齢は二十八・六歳、一日の平均労働時間は十・八時間、平均年収は二百四十七万円です。(一九九九年のアニメ共闘会議調査)


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乃川カナコさん(28) 下請けのアニメプロダクションで、ゼロからはじめました。「根性、気合、やりがい」でやってきましたが、アニメーターとしての喜びはOLとは違った仕事への納得度があります。一枚一枚の動画が描かれなかったら、超大監督の作品も完成しません。監督の「手」であり、「足」であることに喜びを感じ、一枚一枚の動画を描いています。

 しかし、食べていけません。やりがいがあって、生活も成り立つようにはならないのでしょうか。アニメーターの最低生活が社会的にも保障されることを望みます。


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青井スミレさん(27) アニメーターになって十年になります。新人のときの一年間は月八万円でした。いまでは、何とか生活できる収入を得るまで技術を習得。「アニメという物作り」の面白さが分かるようになりました。

 一枚一枚の動画描きに、自分にしかできない創造的な部分を見いだすことができるようになりました。お金はなくても心は潤っています。

 病気にならなかったのでやってこられましたが、病気になったらアウト。新人が育っていくためには三年は必要ですから、待遇を改善しないと育ちません。内向的な性格ですが、「やるぞ!」と、でしゃばってアニメーターの待遇改善のために頑張りたい。


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太田悌記さん(23)  収入は月五万円。自立できません。頑張っても十万円が大台で、それ以上は望めません。おやじには、ないしょで母親が月三万円仕送りしてくれているので何とか生活しています。食事はカップラーメンばかりを食べて暮らしています。

 三カ月でやめてしまうのがこの業界の実態です。私も「やめようかなあ」と何度も思いました。

 食べていけず、磨きを掛ける前に辞めざるを得ない状態があります。修業の場がなく、技術を向上させるのが難しい。

 金もうけのためにアニメ番組を作るのではなく、文化を育てる立場で制作現場が潤うシステムにしてほしいと思います。


メッセージ

「情熱が悪用されている」 アニメ演出家・有原誠治さん

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 若い人たちの切実な声に、泣けてきます。私も若いとき、田舎の両親が先行き不安から八郎潟(秋田県)に入植しないかと迎えにきました。それを頑として断ったのは、自民党農政への批判があったからとアニメに働く仲間の明るさと温かさでした。

 若い人たちは「絵が描ければ幸せ」と思っている人が多く、それが悪用され、単価が安いままで現在にいたっています。アニメのテレビ番組が始まって四十年になりますが、七〇年代になって動画などの下請け化、外注化が始まりました。

 当時、週七本ぐらいだったテレビアニメが今は週八十本。テレビ局やスポンサーはヒットを狙い、ギリギリまで待って番組制作を発注します。多くの場合、数カ月で番組を作り量産しなければならないため、アフレコ(画面を作った後に声や音を録音)に絵が間に合わないなど質的にも荒廃しています。大量の絵を描くアニメーターを育てるようにしないと、日本のアニメ技術は衰退してしまいます。

 東京の練馬区にはアニメプロダクションが七十社、杉並区に六十七社あって、街づくりの一環としてアニメ産業の育成に取り組み始めています。業界全体で改善をはかり、国や自治体も応援するなど文化としてのアニメを作る基盤づくりをする必要があります。

 若いアニメーターの基本には「ものを作りたい、表現したい」というエネルギーがあります。ビデオなどにもアニメが使われ、発表の場もインターネットなどいろいろな可能性が広がっています。人と作品との出合いを大事にし、可能性に挑戦してください。


お悩みHunter

自分から話しかけてみよう

バイト差別する職場気持ちよく働きたい

 「バイトのくせに休むのか」。同じ二十代の正職員の女性などからの心無いアルバイトへの差別扱い。平等や人権に理解のある福祉関係の仕事と思い、安いバイト料、不規則な勤務ですが、頑張ってきました。気持ち良く仕事をしたいと思うのですが。(25歳、夢美。東京都)

 仲良く、連帯して働きたいという夢美さんの気持ちはとても大事なことです。

 休みをとることは働く者の権利です。そのことは誰もがわかっていると思います。福祉関係の職場の人間ならばなおさらでしょう。

 最近はどの職場でも若者の長時間過密労働が横行しています。誰でも仕事の量が多く忙しくなると、どうしてもストレスがたまってしまい、そのはけ口として、弱い立場の人間に向けられてしまいます。アルバイトへの差別はそうした過密労働も原因のひとつだと思います。しかし過密労働だからこそしっかりと休みをとって、連帯して効率よく働く必要があるわけです。

 仲良くなる一番の方法は自分から積極的にコミュニケーションをとることだと思います。話しかけるだけでも結構な労力だと思いますが、その積み重ねが連帯感を生み、仕事も効率よく進めることができます。私は職場でもボクシングジムでも自分から話しかけています。そしてみんなと仲良しです。もし休むことがあっても責められることはありません。もちろん誰かが休んでも責めたりしません。その人の分までがんばろうと思います。

 雰囲気の悪い職場では、利用者にいいサービスが提供できないと思います。ですから、そういう職場は労働者だけでなく利用者にとっても不幸なことです。利用者のためにも職場のみんなと仲良くなれるように話しかけてみてください。


第41代日本ウエルター級チャンピオン 小林 秀一さん

 東京工業大学卒。家業の豆腐屋を継ぎながらボクシングでプロデビュー。99年新人王。03年第41代日本ウエルター級チャンピオン。


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