2004年7月12日(月)「しんぶん赤旗」
徴兵制が復活されるのではないかとのうわさが米国で飛び交っています。ニューヨーク・タイムズ七日付の投書欄も徴兵制復活に対する賛否両論を特集しました。
うわさが広がるきっかけは、陸軍が六月末、個人準備態勢予備役(IRR)に登録されている五千六百七十四人に近く派遣準備命令を下すと発表したことです。
米国には約百四十万人の現役兵以外に、百二十万人以上の予備役・州兵がいます。IRRは予備役の一部ですが、通常の予備役と違い定期的な訓練を受けていません。そこにまで動員が及んだことで、米各紙によれば、「次は徴兵制復活か」との不安も国民から出ています。
ブッシュ政権はアフガニスタンからイラクなどへと「対テロ先制攻撃戦争」の戦線を拡大。どの戦域も終結のめどが立っていません。現役兵には過剰な任務が押し付けられ、不満を緩和するため予備役が大量動員されています。現在イラクに駐留している十四万人の米兵の四割が予備役と州兵です。この現状に「裏口からの徴兵制導入だ」との声が上がっています。
国防総省は徴兵制復活はないと否定。しかし「十一月の大統領選、連邦議会選が終われば動きが進むのでは?」との疑惑は消えません。
米国の徴兵制は、ベトナム戦争終結のパリ和平協定が結ばれた一九七三年一月に廃止されました。しかし「選抜徴兵制」(SSS)という制度は残っています。この下で徴兵制復活に備えた十八―二十五歳の国民の登録が八〇年に再開されました。現在、千四百万人が登録されています。SSSは最近、職員の新規募集を発表。これも徴兵制復活のうわさを呼ぶ要因になっています。
連邦議会では昨年一月、ランゲル下院議員らが、SSSを廃止し、十八―二十六歳の国民を徴兵する制度を導入する法案を提出しました。
現行の志願制では貧困層ばかりが戦争に駆り出される。徴兵制にして「犠牲を平等にする」というのが法案提出の理由。朝鮮戦争への従軍経験のある同氏。戦争に賛成しながら自分の子どもを兵隊に出さない議員に圧力をかけるため、イラク戦争を目前にした時期にこの法案を出しました。
またこうした動きの背景として、戦争をあおりながら自分たちは戦場行きを逃げた、ブッシュ大統領やチェイニー副大統領をはじめとする現政権の主戦論者への根強い批判もあります。
「徴兵制にするなら、ベトナム戦争時のような抜け穴だらけのものではなく、上院議員の息子や大統領の娘も含め全員が行くものにすべきだ」―ソリアノ退役海軍艦長は投書で訴えています。 坂口明記者