2004年7月9日(金)「しんぶん赤旗」
今年三月期決算で純利益一兆円を記録し、奥田碩日本経団連会長の出身企業でもあるトヨタ自動車(本社・愛知県豊田市)。ところが、地元の中小企業や労働者からは「トヨタ最高益の実感はない」という声が聞こえてきます。参院選最終盤を迎えた“トヨタ城下町”を歩きました。
北條伸矢記者
「(会員の声を集約すると)売り上げは右肩上がりですが、それに見合う収益がない。単価切り下げで利幅が少ないからです」―豊田商工会議所の幹部が五日、豊田市議会産業支援推進特別委員会との懇談で口にしました。
同会議所には市内の中小企業千四百社が参加。ほとんどがトヨタ関連です。景況感について、会議所幹部は続けました。
「五―十年先の見通しはきわめて不鮮明です。この先、トヨタ系企業の海外生産がますます増えるのは間違いなく、どこからでも安い部品が調達できるようになる。激しい競争にさらされることを覚悟しなければ…」
トヨタ系列の下請け単価切り下げ圧力はすさまじいものがあります。それがまた、「一兆円利益」の源泉でもあります。
トヨタ系工場の仕事を請け負う市内の電気工事業者(52)は「単価切り下げで、一時売り上げが最盛期の三分の一になり、生命保険や火災保険を解約して、しのいだ」と窮状を嘆きます。今は若干戻しているものの、利益が出ていません。「五日間の仕事を三日間の労賃でやれ」など、元請けの圧力が続いています。
「この間、同業者が二社倒産した。それなのに、奥田さん(トヨタ自動車会長)は『収入が増えないなら、生活の無駄を省け』と勝手なことを言っている。息子が仕事を手伝っていますが、このままでは自分の代で終わりでしょう」
市によると、資本金一千万円以下の市内の中小法人約四千六百社のうち、二〇〇三年度、法人市民税を納付した法人は約三割。つまり、約七割の中小企業は赤字です。
一方、トヨタ自動車を含むトヨタ系が中心の大企業(資本金五十億円超)が納めた法人市民税は、一九九〇年度の三百三十四億円から昨年度は二百七十九億円へと減りました。日本共産党の大村義則豊田市議は「法人税減税の結果、トヨタの増益が地元に還元されていない」と説明します。
「乾いたタオルを絞る」といわれるトヨタ方式は、労働現場でも同じ。有期雇用や派遣・請負労働者が増え、長時間労働が横行しています。
「生産の増減に伴って三千人くらいの非正社員が投入され、またサーッといなくなる。まさに調整弁だ」と、トヨタ車体を五十五歳で早期退職したばかりの男性。
長時間労働や裁量労働制の導入で労働者は疲れきり、心の病や過労死も増えています。トヨタ系中核企業の労働者(53)が言います。
「会社がサービス残業を是正せざるをえなくなったことは結構知られているんです。共産党の国会論戦の成果です。ただ、労働者は、疲れきって政治にまで関心が向かない。社内では、民主党候補の支持を押し付けている労組もトヨタに都合がいい情報しか流さない。労働者の声を大切にする共産党の姿が多くの人に伝われば、変わる可能性はあると思いますよ」
日本共産党労働者後援会は八日早朝、トヨタ系列のデンソー本社門前でビラ配り宣伝を行いました。意外にも、ビラを受け取る若い女性社員の姿が目立ちます。訴えが届けば変わる―。時間はまだ残っています。