2004年7月5日(月)「しんぶん赤旗」
夏の日ざしの中、街を歩くリクルートスーツ姿の学生たち。日本の大学生は、三年生の後期から肉体的にも精神的にも消耗する就職活動をしなければなりません。二十一世紀のこれからをになう若者たちを、こんなに苦しめ、痛めつけていいのでしょうか。これは六月に内定をもらった早稲田大学の文系学部四年生の夏子さん(21)=仮名=の約半年間の就職活動です。 小林拓也記者 矢野昌弘記者
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やっぱり就職活動は大変でした。一月から本格的に活動を始めて、六月になってやっと決まった。この間、できることがいっぱいあったはずで、英語の勉強や資格も取れたかも。サークルも卒論もがんばりたかったのにもったいない気がする。卒論は資料を集めないといけない時期だったけど、その気になれず全然手につかなかった。採用試験では三十社以上もフラれまくって「自分はこれでいいのかな」って、落ちる度に自分を否定してしまって、精神的にも消耗してしまった。
こんなに会社優位でいいのかなと思う。大学を出たばかりの人間がすぐにモノになるわけがないのに、「即戦力」がほしいといって「厳選採用」と、ふるいにかけるのはおかしいんじゃないかな。会社に人を育てる気がないんじゃないか。
夏子さんの就職活動月誌 |
3年生 12月 大学の講義にリクルートスーツの友達の姿。内心あせる。
1月 企業の説明会始まる
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就職活動の学生むけのWEBサイトで希望の会社を探し、50件近い会社にエントリー。説明会の案内が届くが資料の量が男子と女子では全然違う。週3〜4日は就職活動の予定で埋まる。
2月 説明会ピーク
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1週間5件のペースで説明会の予約を入れる。行った説明会でいきなり面接や筆記試験があったところも。
面接が終わった後に、やり取りを反省して自己嫌悪。一週間単位で一喜一憂の波がくる。会社の面接が進むたび、女子学生の数が減ってくるのはどういうことなのかな。
1日に3社回ることも。スケジュールが埋まっていないのが怖い、とにかく予定をいれまくっていく。
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3月 試験の日程が次々と発表された。大きい企業には書類選考用のエントリーシートを送らないといけない。ある大手出版社のエントリーシートはひどかった。「好きな雑誌と好きな本とその理由」「あなたが新しい文学賞を創設するとしたら?」「休日の過ごし方」と書かされた。
最後に「あなたの赤面体験」を400字で書いて出したが、会社からそっけない不合格通知。「あれだけ書かせて…」とツッコミたくなった。教員免許を取る予定なのを知って「あなたは教師の方がむいてる」という面接官の発言は腹が立つ。
週に5日は予定で埋まる。土日以外はほとんど空かない。
4年生 4月 企業の面接がピーク
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週に5〜6日が埋まる。週の後半は全部ふさがった。
一番行きたかった会社から「不採用」の通知がきた。この日、ベッドに突っ伏して布団かぶって寝ていた。試験に落ちる度に落ち込むけど、こんなに無気力になったことはない。就職活動がうまくいかなくて自殺した人もいるというけど、その気持ちがわからなくもないと思った。
5月 面接を受けにくる学生の男女比が2〜3月ころと、全然変わっている。女性の数が圧倒的に多くなった。交通費がバカにならない。都内の移動だけで月1万円になる。
いつ就職活動を辞めようか、どこであきらめをつけようかという気持ちになった。
三年生の後期、早い業種では二年生からダブルスクールなどで学生が競争を始める就職活動というのは、世界的に例のない現象ではないでしょうか。四年間でしっかり学び、いずれ社会に学んだものを還元するという意味では、現在の形の就職活動は学生にとっても社会にとってもマイナスです。しかしそういうことに気づきながらもやらざるを得ない現状というのがあります。
現在の「厳選採用」という形の就職活動は、企業にとっては多くの人材の中から欲しい人を選びとるという有利な制度。「即戦力志向」という言葉は、企業が見て「即活用可能」「即成果に直結する」ということです。
今の日本の企業は、職場内教育が非常に弱くなっている状況があり、その背景には“個人の努力で職業能力を身につけろ”という政府と財界の政策転換があります。この採用のあり方と、現在のフリーターの増加は根がつながっています。
欧米でのフリーターは、正社員になる必要な職業能力を身につける期間でもあります。日本の場合、安価な労働力として扱われ、若い人のキャリアアップにつながることは、あまりありません。
日本の企業は「働かせる側の自由」を声高にふりまくけれども、若年者の働く自由がないがしろにされ、職場の主人公として働くという考えが欠如しているという指摘が評論家や研究者からあがっていますが同感です。
「働く」ということは人間の本源的なものです。これをないがしろにしているのが、企業であることは明らかです。就職で苦労している若い方たちには、こういった大本にある問題をきちんと見据えながら、希望を見失うことなく、働く上で大事な知識や技術を身につけていってほしいと願っています。
ドイツのシュレーダー連立政権は、誕生した一九八七年に「青少年雇用緊急プログラム」(JUMP)を決定し、次の年から実施。それは、十五歳から二十五歳の青年に対し、毎年「十万人雇用」をつくりだす計画です。このJUMPに参加した青年は、二〇〇三年五月までにのべ約五十一万人。そのうち、六割近くが職を見つけています。
また政府と商工会議所は、さらに青年の雇用を増やそうと〇五年から三年間、職業訓練職を希望するすべての青年に、少なくとも一つの就職先をあっせんすることにしています。
日本共産党は参議院選挙にのぞむ政策で、若者にやりがいのある仕事を増やすため、企業が若者を雇用するという社会的責任をきちんと果たすよう「雇用政策の転換」をすすめる、とのべています。そのために、政府が大企業に若者を正社員として採用するよう求める、国民の暮らしに必要な分野で若者の雇用を増やす、若者の雇用対策予算を大幅に増やすことなどを政策に掲げています。
Q 学校でも、家でも「受験」「受験」といわれます。僕はどこでもいけるところにいけばいいんじゃないかと思う。今、将来を決めろといわれてもできない。僕は自動車の修理の仕事をして食べていけるようにしようとも思う。なぜ高校にいかなければならないのか教えてください。 (マサ 中学3年 14歳。東京都東久留米市) |
A あなたは今、いくつの職業を選択できると思いますか? そして、その職業に自分の持ちうる力のすべてを懸けることができますか?
あなたは悩みの中で「今、将来を決めろと言われてもできない」と言っていますが、だからこそあなたは今、将来の選択の幅を広げるために進学し、その場所でさまざまな経験をしながら自分自身のかけがえのない人生を、考えていくことが大切であると私は思います。
私は教師という職業を選びましたが、さまざまな問題や、しなければならないことに追われながら、ハッと気がつけば夜になっている、そんな毎日です。振り返る暇もないほどの忙しい日々を、必死になって生きています。でも、私はそのことに対して少しの後悔もありません。なぜなら、必死になって自分の人生を考え抜いた末に選んだ職業だからです。
「学校」という言葉を意味する英語「スクール」の語源は、ギリシャ語で「暇」を意味しています。「考える暇」のある今の時期だからこそ、たくさんのことを学び考え、そして自らの後悔のない人生を選んでいくことが今、あなたが、あなた自身のかけがえのない未来のためにできる、精いっぱいの「仕事」であると私は思います。
答えを急がないでほしい。悔いのない人生を生きてほしい。
明治学院大学法学部卒。99年から母校北星学園余市高校教諭。テレビドラマになった「ヤンキー母校に帰る」の原作者。