2004年6月28日(月)「しんぶん赤旗」
|
小泉首相は選挙戦で「改革の芽がようやくでてきた」と強調していますが、政権が始まって三年、国民の暮らしは少しもよくなっていません。それどころか大規模なリストラがまかり通り、雇用の劣悪化と不安定化がすすんでいます。これにたいし欧州では労働者の権利と雇用をきちんと守る制度が充実し、さらに前進させる努力が続けられています。坂本秀典、山田俊英記者
欧州連合(EU)は二〇〇一年、企業が労働者を解雇するさいには、職場の労働者代表に事前に情報を提供し、協議しなければならないとする指令を採択しました。多国籍企業に対してはすでに一九九四年、同様の指令が成立しています。
EUにはさらに集団解雇にさいして協議を義務づけた指令(七五年、九二年改定)や企業譲渡のさいに労働者の権利を守る指令(七七年)があり、各国が守るべき最低の基準となっています。
この六月のEU首脳会議が採択した欧州憲法には欧州基本権憲章が含まれています。基本権憲章には、企業での労働者の情報・協議権のほか、不当解雇からの保護や団体交渉・行動権、公平で公正な労働条件の保障など雇用のルールと権利が厳格に定められています。
ドイツでは、社会的に合理的理由のない解雇は無効です。解雇には従業員代表組織である事業所評議会の同意が必要です。フランスでは転職促進計画がない解雇は無効。従業員五十人以上の企業が十人以上を解雇する場合は労働監督局の許可が必要です。
各国には労働事件を専門に扱う労働裁判所があって、ルールを厳格に守らせる役割を果たしています。労働者に過酷な訴訟負担もなく、半年ぐらいで判決をだしてくれます。年間の労働訴訟は、各国で十万から数十万件。訴訟件数わずか二千五百件余の日本とは大きく違っています。
フランスでは〇二年、タイヤメーカー・ミシュラン社の地方工場閉鎖で労働裁判所は解雇規制法を適用し、閉鎖を不当とし、労働者に損害賠償を行うよう命じました。
EUは一九九七年、パートタイム労働者に均等待遇をうける権利を明記した指令を採択しました。この指令で英国でも二〇〇〇年からパートタイム労働者への正社員と同等な権利を保障する規則が実施されました。
イタリアでも同年に新パートタイム労働法が成立。時間あたり報酬額、試用期間、年次休暇、母性保護、疾病・労働災害・職業病のさいの現状保持期間など具体的な事例をあげて差別を禁止しました。
ドイツ、フランス、イタリアの派遣労働法は、派遣労働者の報酬、待遇は同じ仕事をしている派遣先企業の労働者を下回ってはならないと明記しています。
フランス、イタリアの派遣労働法には、派遣労働者が派遣先企業の福利厚生施設を正規雇用者と平等に利用できる規定もあります。ドイツ、フランスでは職場での安全教育を平等に受けることはもちろん、高所作業、有毒物質の取り扱いなどの業務については派遣先企業が教育する義務を負わされています。
雇用は正社員が基本であり、派遣労働は、長期欠勤者が出たり、急に仕事が増えたりした時などやむをえず使うものというのが欧州の常識です。
正規雇用を減らして派遣労働者をあてることができないよう、一つの職に派遣労働をあてられる期間はドイツでは原則的に最長九カ月、フランスでは十八カ月に法で制限。それを超えて派遣を受けた場合、派遣先企業は派遣労働者と無期限の雇用契約を結んでいる正規雇用とみなされます。
フランスの派遣労働法には、派遣先企業の「通常かつ恒常的業務に」継続的に充当できないとはっきり書かれています。
派遣労働者の待遇に各国で差があるため、EUでは指令を制定し、欧州共通の基準で保護しようとしています。現在、そのための指令案が審議されています。ここでも派遣労働はやむをえない場合の雇用形態であり、基本は直接の常勤雇用だという考えです。
指令案の中心は「差別禁止の原則」。派遣労働者と正規雇用者との同等待遇を保証するため、加盟国では労使協定の締結促進や法制度の整備が義務づけられます。
派遣労働者を正規雇用にするための各国政府の努力も盛り込まれています。「派遣先で常勤職を見つけられるよう、空いたポストについて派遣労働者は同様に情報を与えられる」「派遣期間中も職業訓練を受けられるよう改善を図る」などきめこまかな内容です。
欧州連合(EU)の法律に当たります。執行機関の欧州委員会が提案をつくり、加盟国の閣僚級代表で構成する理事会と欧州議会が審議のうえ共同で決定します。採択されれば加盟各国は目標を達成する義務を負い、国内法や規定を制定または改正しなければなりません。