2004年6月21日(月)「しんぶん赤旗」
大学で、学生同士があまり討論をしなくなったと言われて久しい。「ゼミが盛り上がらない」「仲良しを演じて気疲れする」などの声もきかれます。現状はどうなのか。豊かな人間関係を築くカギはどこにあるのか。3人の大学生に、語り合ってもらいました。(上下2回連載)聞き手・坂井希記者
――コミュニケーションについて感じていることをきかせてください。
加門 私は人と本音でしゃべるのが苦手でしたが、平和サークルなどで活動している最近は、人と話すことで自分が成長するし、人って大事やなと感じながら生活しています。
西原 私は、高校三年生のときNHK「真剣10代しゃべり場」に四カ月間出演したことと大学入学を機に、自発的にコミュニケーションをとるようになったと思います。今は受験勉強で家にこもってますが(笑)。
長谷川 日ごろ、民青同盟で学生に平和のとりくみを呼びかけたり、社会問題の背景を学んだりしています。僕が最近感じるのは、いい悪いは別にして、新入生が敬語を使わないってことなんです。
西原 そういえばあるかも…。
長谷川 僕は後輩に呼び捨てにされても気にしないけど、教授に対してもタメ語(友だち言葉)なんです。人との関係をどう円滑にしていくか、あまり意識化できていないのかなと思います。
西原 確かにありますね。ただ、それはコミュニケーションの手段の問題ですよね。コミュニケーションをとろうとすらしない人も、結構いるように思うんだけど。
加門 私の大学は学生数も少ないし、芸術をやりたい人が集まっていますが、学生の間のコミュニケーションが薄いといわれます。ある教官が学生に「なぜ作品を批評しあったり芸術を熱く語りあったりしないのか」ときいたら、「人間関係を壊したくない」という答えが返ってきたそうです。表面的に仲が良くても、それって本当のコミュニケーションといえるんだろうか。
西原 コミュニケーションって一人じゃできない。相手に歩み寄り、理解しようとすることが必要ですよね。だけど、一人ひとりの中に壁があって、それを壊すにはエネルギーがいる。壊さないで殻の中で話をしている人が多い気がしますね。一回生も入学直後で、もっと目がキラキラしててもいいのに、何か疲れてるみたい。
長谷川 五割くらいの新入生が、六―七月になっても入るサークルを決められないとききます。入りたい気持ちはあるけど他者に触れるのが怖い、面倒だという意識があると感じます。他方、民青同盟でアンケートをとったら、ほとんどの新入生が「大学では生き方を考えたい」「豊かな人間関係の中で学びたい」と答えました。
みんなと交流しながら学問を深めたい、人間的にも成長したいという思いはあるが、うまく表現できない。途中で他者におびえてしまったり、さっきの敬語の話じゃないけど、やり方がわからないのではと思うんです。
加門 昔の私みたいな人が多いのかもしれない。私は高校のときは成績順で行く高校が決まり、クラスで嫌なことがあって人間不信になったりしました。悩みがあっても全部自分で解決しようとして、人に話そうとは思わなかった。
でも、平和の問題の学習会にとりくんで人と勉強する楽しさを知ったり、大学で先輩に「大きいことやろうや」と励まされて、鴨川に風船の橋を架けて平和をアピールしたり。そのなかで、「自分にもできる」「同じ思いの人がたくさんいる」とわかって壁が破れ、コミュニケーションが楽しくなったんです。
西原 私も高校生のころは、全然コミュニケーションをとらなかった。一人でいれば、ケンカもトラブルもなくて楽なんです。高校生平和ゼミナールという活動には参加していましたが、そこは「戦争はダメ」「自衛隊はよくない」など、ある程度同じ考え方の人が集まっているので居心地がよかった。ところが、しゃべり場は衝撃でした。
「人を殺して何がいけないの」なんていう人もいて、初めはとまどいました。でもあるとき「そういう人も同じ人間なんだ」と気づいたんです。逆立ちして歩いているわけでも宇宙人でもない。根っこにある喜怒哀楽は私と同じじゃないか。そう思ったとき、すごく安心したんです。それが、壁を破って自分のことを話してみようと思うきっかけになりました。(次回はコミュニケーションのとり方)
Q 結婚しています。私は男性でも女性でも多くの人と知り合い、自分自身を高めていきたいと思っています。でも夫は私が異性と飲みにいったりすることを嫌がります。夫を傷つけるのもいやですが、なんとか両立させたいと思います。どうしたらいいでしょうか。(28歳 東京都内)
A いろんな人と知り合って自分を高めていきたい…。そうですね。でも、異性との個人的なつきあいとなると、人によって考え方はいろいろあると思います。また、あなたがどんな人とどんな話をしているか、彼への伝え方一つで、違ってくることもあるかもしれません。
恋人もそうですが互いにパートナーとして特定な人を選んだとき、相手の気持ちを尊重することは大切なのではないでしょうか。
結婚までは、互いに相手を理想化したり、「幻想」を抱いているところもありますよね。でも、生まれ育ってきた環境も違えば、性にかんする考え方も違う。その違いをわかりつつ悩んだり、深いところでぶつかったり、折り合ったりして、対人関係の基本を学ぶ。それも自分を高めることになります。
保守的な結婚のイメージにとらわれる必要はありません。ですが、結婚はするより維持しつづけることにエネルギーがいるものです。そのことに向き合わずに過ごし大きな溝になってしまう人も意外と多いようです。
彼を傷つけたくないというあなたの気持ちは大切。これを機に互いの結婚のイメージについて話し合ってみては? 自分や相手を改めて知る機会になるんじゃないでしょうか。
きずなが強まれば彼の考え方も変化してくるかもしれません。自分を高めたいというあなたの考えは失わず大切に培ってください。いつか周りにもわかってもらえるでしょう。
山口大学医学部卒。代々木病院、松沢病院などで勤務。99年からめだかメンタルクリニック院長。