2004年6月18日(金)「しんぶん赤旗」
パ・リーグ2球団の合併によって、球界再編や1リーグ制が取りざたされるプロ野球。今回の合併劇の裏に、ある人物の存在が見え隠れします。以前から、球界再編を強固に主張してきた巨人の渡辺恒雄オーナーです。
球団命名権の売却問題などでの近鉄球団への強い批判、犬猿の仲といわれたオリックスの宮内義彦オーナーとの会談…。今回の合併合意に向け、一部球界関係者の間ではすでにシナリオができていた、との指摘は多い。
10年ほど前にも同様の動きがありました。1993年6月、当時、読売新聞社社長の渡辺氏が中心となって進めていた「新リーグ構想」が突然もちあがり、球界やマスコミを揺るがしました。
巨人と西武が組んで、阪神、ダイエーなど一部球団を抱きこみ新組織を発足させる――その裏には「ドラフト撤廃」の狙いがありました。結局、この脅しが効いた形でドラフト制に逆指名権を導入。同年、条件付きながら移籍の自由を認めたフリーエージェント制も取り入れられ、プロ野球は一気に「自由化」の時代に突入していきます。
「球界改革」のかけ声の下での騒動も、終わってみれば巨人偏重にいっそう拍車がかかっただけでした。戦力の不均衡、慢性赤字の球団、スター選手の大リーグ流失…。球界がかかえる根本的な問題は何一つ解決できませんでした。
そのうえ、いまや巨人依存型の球界運営にも陰りが見えます。巨人戦の平均視聴率は年々低下、「プラチナチケット」といわれた入場券もだぶつく状態です。
17日のパ・リーグ緊急理事会の前日、近鉄首脳と会談した渡辺オーナーは「球界を活性化させようと思ったら、プロ野球界全体がこの辺で根本から考え直さないといけない。経営者、選手すべてが犠牲を払わないと球界の再編はできない」と話しました。球界再編への並々ならない意欲は、彼なりの“危機感”の表れともいえるでしょう。
ただし、その手法は、いまの小泉政権が推し進める「雇用の構造改革」と軌を一にします。今回の合併について、奥田碩・日本経団連会長は「球団数を減らし、1リーグ制になるのは合理的」「8球団か10球団くらいでやったほうが面白くなるのではないか」などと無責任に発言。選手の大量首きり、ファン離れを招きかねない球団削減を奨励し、大企業のリストラ応援の旗振り役をスポーツの場でも演じようとしています。
1950年に2リーグ制がスタートしてから、50年余り。球団によって変遷はあるものの、各チームからスター選手が生まれ、ひいきのファンがつき、戦後のプロ野球は国民的スポーツといわれるまでに発展してきました。
球界再編を叫ぶ前に、どれだけ組織として共存共栄をはかる努力をしてきたのか―。戦力均衡、テレビ放映権の一括管理や両リーグ交流試合の実現をはじめ、改善すべき課題は山積しています。
プロ球界を統べる野球協約には、目的の第一に「野球が社会の文化的公共財となるよう努めることによって、野球の権威および技術にたいする国民の信頼を確保する」ことをかかげています。
いつまでも、公共性の強い球団を親企業が広告塔として好き勝手に扱う状況が許されるわけはありません。渡辺オーナーらが狙う球界再編ではなく、協約の精神に立ち戻った改革を実行していくためにも、選手会労組を先頭に現場やファンが声をあげるときです。
(本紙スポーツ部記者)