2004年6月17日(木)「しんぶん赤旗」
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日本共産党の志位和夫委員長が十六日の党議員団総会で行ったあいさつ(大要)は次の通りです。
いよいよ参議院選挙ですが、国会閉会にあたって、ごあいさつを申しあげます(拍手)。
今期で七名のみなさんが参議院議員を勇退される――池田幹幸さん、井上美代さん、岩佐恵美さん、小泉親司さん、富樫練三さん、林紀子さん、吉岡吉典さんが勇退されることになります。勇退されるみなさんのなかには高齢や健康上の理由からの方とともに、今回の参議院選挙に臨む方針を踏まえて勇退を決断された方もおられます。まず、七名のみなさんのこれまでのご奮闘にたいし、心からの敬意と感謝の拍手をみんなで送りたいと思います。(大きな拍手)
さて、この国会は内外情勢の大きな激動のなかで行われた国会でした。それだけに、それぞれの政党の真価が問われた国会となりました。私は、そのことを小泉政権・自民・公明連合、野党第一党の民主党、日本共産党、この三つの流れについて見てみたいと思うのです。
まず、小泉内閣、自民・公明連合は、この国会で、これまでの歴代の自民党政権でもなしえなかった二つの歴史的な大悪政を強行しました。
一つは、戦後初めて戦争が続いている外国領土――イラクへの自衛隊派兵を強行したことであります。
もう一つは、年金制度について将来にわたって負担増と給付減を国民に強いる希代の歴史的悪法を強行したことであります。
どちらも特徴的なのは、それだけの歴史的悪政を強行しながら、国民のみなさんにたいするまともな説明が一切なかった。それをする姿勢もないし、それをする能力もない、このことがはっきり浮きぼりになったということでした。
たとえばイラクの派兵の問題では、戦争の大義とされた大量破壊兵器が見つからない問題、憲法とのかかわりでも占領への参加は憲法違反だという問題、イラク特措法とのかかわりでも「非戦闘地域」というのは到底説明がつかない問題、どの問題でもまともな説明が一切ないまま「派兵先にありき」と、数の力での強行がされました。
いま、多国籍軍への参加が問題になっています。この問題もまともな説明がありません。従来の政府の見解では「武力行使をともなう多国籍軍への参加は憲法上許されない」と、この問題ではきわめて明解な見解を示していました。そして、政府は「参加」とは何かということについて自ら定義し、それは「多国籍軍の指揮下に入ることだ」といっていた。ところが、多国籍軍への参加をブッシュ大統領との会談で小泉首相が言明してしまう。そこで大変な矛盾に陥って、「参加はするが指揮のもとには入らない」という、大きな論理破たんに陥る。この問題への説明もありません。まさにこれも、「参加先にありき」という立場で、憲法じゅうりんをさらになし崩し的に一歩進めるという立場だけが際立っています。
年金問題はどうでしょうか。この大改悪に際して、与党が最大のスローガンにしたのは「百年安心」ということでした。その「根拠」としていたのは、「負担は増やすけれども上限がある」「給付は減らすけれども50%は確保します」と、この「二枚看板」だったわけですが、これは両方とも大うそだったということが明らかになりました。
しかし、この問題を考えてみますと、給付をどうするか、負担をどうするかということは、年金の問題を考えるのだったら、一番の核心中の核心であって、国民が一番知りたいと考えている問題は、ここにあったわけです。
ところが、その真相を隠せるだけ隠しとおすという態度をとって、参議院に法案が回って、小池質問で詰められて、しぶしぶ出した。これが経過でした。
つまり、私は、この小泉政権、自公連合がやってきたことを見ますと、これまでのどの内閣もできなかった歴史的大悪政を二つながらに強行しながら、そのどちらについても、国民への説明責任を果たさない。真相は隠して、まともに明かさない。国民をあざむく不誠実な態度に終始したというのが特徴だったと思います。
私はここに、いまの政権党が陥っている末期症状と、政治的退廃の深さを見る思いがいたします。この暴挙を働いた政権党にたいして、今度の選挙で厳しい審判を下そうではありませんか(「そうだ」の声、拍手)。
それでは、野党第一党だった民主党はこの国会でどうだったのか。こうした与党の大悪政にたいして、どういう態度をとったのかが検証されなければなりません。
私たちは、一致する課題で民主党と野党共闘を進めてきました。
同時に、国会をふりかえってみますと、民主党が国政の基本問題で自民党政治に対抗する足場が持てない、その弱点、問題点が国会の節々で深刻な形で現れたということを指摘せざるをえません。
まず、イラク問題について見てみますと、民主党はイラク特措法にもとづく自衛隊派兵には反対の態度をとりました。
しかし、いったん派兵が強行された後の態度はどうか。これを見ますと、「即時撤退を求めない」という方針を、四月二十日の役員会で決めています。
そして、もう一つ、五月に民主党の(菅直人)前代表が国連のアナン事務総長と会談して、その場で「国連決議にもとづいて多国籍軍がつくられれば、自衛隊の派遣も検討可能だ」と言明しました。これは、かねてからのこの党の態度を言ったものであります。
ですから、先日の安保理決議一五四六で多国籍軍の設置を決める内容が採択されますと、混迷状況に陥ることになるわけです。
先日、市田書記局長が出たテレビの討論会を見ておりましたら、与党から“国連が決議を採択すれば、民主党は自衛隊派遣を認めるといっていたじゃないか。いまその決議が採択されたんだから、賛成しなさい”と追及される。
それにたいして民主党の代表(藤井裕久幹事長)が、“自衛隊はいったん撤退させて、新法を制定させて派遣する”というようなことをいうと、また与党から“いったん撤退なんていうのは現実性がない。撤退をさせてそれでおしまいという共産党の立場だったら、是非は別として筋は通っている”(笑い)というような追及がされる。ですから、この問題について、まともな態度がとれません。
この根本を考えますと、民主党の憲法九条に対する姿勢の問題点が横たわっていると思います。すなわちこの党が、九条改憲を進めるという点では、自民党と同じ土俵に立っている。このことは国会の冒頭での、小泉首相と民主党の前代表との改憲問題での「エールの交換」にも象徴的に現れました。
さらには、この根本には、民主党が日米軍事同盟の枠組みにしばられているという根本的欠陥があることを言わざるをえません。ですから「日米同盟のため」と与党の側から突きつけられますと、その枠内でしか答えが出せなくなる。
この党の憲法にたいする姿勢、さらには安保にたいする姿勢の根本的欠陥は、米軍の戦争への参戦を具体化する有事関連法案を、与党と民主党との談合で強行したということに、最悪の形で現れたことを、厳しく指摘しなければなりません。
年金問題はどうでしょうか。
年金問題でも、民主党は政府案には反対の態度をとりました。その限りでは、わが党と国会内での一定の共闘をやりました。
しかし、私は、国会をふりかえってみまして、二つの重大な問題点がはっきり現れたということを言わなければならないと思います。
一つは、民主党が国会に提出した年金法案の内容であります。
これは中身を見ますと、給付を減らす、という点では、政府案とまったく同じです。給付を減らす方式が「マクロ経済スライド」という方式を使う。そこまで同じです。給付減ではまったく同じです。
どこが違うかというと、負担増をすすめる方式の違いです。国会質疑のなかで、ある自民党議員が面白いことを言っていました。“(与党と民主党の)両者の違いは、右のポケットから取るか、左のポケットから取るか、そこだけだ”(笑い)というんですね。
つまり、政府案は保険料中心の負担増を求めるけれども、民主党案は消費税増税中心の負担増を求める。3%の「年金目的消費税」を創設するということを、堂々と出したわけですから。その違いしかない。
消費税増税による負担増というのは、財界が一番喜ぶ案になります。なぜなら、保険料というのは、半分が企業の負担になるわけですけれども、消費税はただの一円も大企業は負担をしなくてもいい税金だからであります。
ですから、自民党と民主党が年金をめぐって「対決」したように見えても、実は国民にとっては、政府の方針も民主党の方針も、どちらも受け入れがたい。このことが明らかになったのではないでしょうか。
もう一点、この国会での重大な動きは、自民、公明両党と民主党との間で結ばれた「三党合意」であります。
この「三党合意」は、直接は衆院(本会議)での採決日程を合意し、衆院での年金法案の強行に事実上、手を貸すというものでありました。
同時に、その中身の核心はどこにあったかといいますと、「社会保障制度全般について、税・保険料等の負担と給付の在り方を含め、一体的な見直しを行」うということを明記しているところにありました。
これは何を意味するか。与党の側は、「二〇〇七年度をメドに消費税を含む税制の抜本改正」ということをのべ、事実上の消費税増税の方向を打ち出しています。民主党は、「年金目的消費税」といって増税を打ち出し、この日程も二〇〇七年度からと打ち出しています。「三党合意」をよく読みますと、「一体的見直し」の結論を出す期限がちゃんと明記されておりまして、二〇〇七年三月であります。
つまり、この「合意」というのは、二〇〇七年度をめどにおいて、消費税増税をお互い協力しあいながら、進めようじゃないかという「合意」にほかならなかった。消費税増税の問題では、むしろ与党をリードする役割を果たしてきたのが、民主党でありました。
民主党のこれらの問題の根本には、「財界が主役」という政治をただす姿勢がこの党にはない。それどころか、財界の要求にいかにこたえるかを自らの「売り物」にしているという問題点があるということを、言わざるをえません。
私は“二大政党制で政治はよくなる”という幻想は急速に色あせつつあると思います。民主党には、「自民党政治を変えたい」という国民の願いを託すことはできないということも明らかになったということが、今国会の結論だったということも強調したいと思います。(拍手)
こうした政党状況のなかで日本共産党の役割はどうだったか。私は三つの点をのべたいと思います。
まず第一は、イラク問題でも年金問題でも、問題の核心を突く論戦で国会を動かす働きを行ったということであります。国会論戦でわが党が果たした役割はひじょうに大きかった。マスコミもしばしば注目せざるをえないような名場面も数々あったということを振りかえってみたいと思うんですね。
イラクをめぐる論戦ではいろいろな場面がありましたけれども、赤嶺議員が明らかにした文書――自衛隊先遣隊の報告書が、「派遣先にありき」で政府の都合のよいように事前につくられていたということを明らかにした政府の内部文書を明らかにした衝撃というのは、大変なものでした。その追及も含め、「イラク論戦共産リード」ということをマスコミもずいぶん書きました。
年金の論戦では、小池質問のインパクトはひじょうに大きなものがありました。「二枚看板」崩れたということはマスコミでも話題になり、そして他党もふくめてかなり共通の認識になった。これはもはや与党の“売り”ではなくなって“弱点”になったというのが、この質問の成果でありました。
それから年金問題ではわが党の独自の政策を出したことの意味は、ひじょうに大きいと思います。「最低保障年金制度」という本当の年金の改革案を出し、「逆立ち」財政の転換と大企業・高額所得者への応分の負担という財源論でも堂々たる方針を示した。これも今後に生きる大きな意義をもつものであります。
わが党が、少数の勢力でも、論戦でこうした国会を動かす大奮闘を行えた根本には、「アメリカいいなり」と「財界が主役」というゆがみをおおもとからただす党の路線がある。本当の改革の党の真価が、論戦のなかで発揮された国会だったということをお互いに確信をもってつぎにのぞみたいと思います。(拍手)
第二に、日朝問題など国民全体の利益―国益にかかわる問題でわが党が道理ある姿勢を貫いてきたことも重要であります。
わが党は北朝鮮による拉致問題や国際的な無法問題に一貫して厳しい批判をしてきました。同時に、両国間の諸懸案を交渉によって解決することを先駆的に提唱し、促進してきた党であります。そういう立場に立って、この問題では、政府の動きでも道理にかなったものは歓迎し協力するという立場をとってきた。このことが他党からも「責任ある立派な態度」だというふうに評価されるということが、しばしばありました。
日朝首脳会談の直後に行われた両院での質疑にもそれはあらわれました。穀田さんが行った質問に対して小泉首相が開口一番、「党派のちがいをこえご協力いただいてありがたい」といいました。参議院で吉岡さんが行った質問に対しては与党席から「引退するのはまだ早い」という声がとんだというふうにも聞きました。
私たちは、そういう立場をとりながら、同時に交渉による解決に逆行する「圧力」・「制裁」論、「体制打倒」論、これをきっぱり退けるという立場もとりました。
この国会では二つの「制裁」法―外国為替法の改悪、特定船舶入港禁止法が強行されたわけでありますが、反対の態度をとりました。六カ国協議の「各国は情勢を悪化させる態度をとらない」という合意にてらして、これは受け入れられない。こういう態度をきっぱりとったことが、保守の方々からも「たいへん勇気ある態度に感銘を受けた」という評価をいただきました。これが二つ目の問題であります。
最後に第三の問題ですが、わが党が国会戦術においても道理を貫いたということを強調しておきたいと思います。
私たちは、与党の自公による国会のルール破りは厳しく批判する、また、悪法の無法な強行に対しては長時間の演説もやる、牛歩もやる、そういうことも含めて合法的な手段で堂々と抵抗の姿勢を示す態度をとりました。参議院本会議の年金法案の最後の攻防で井上美代さんが一時間四十五分の大演説をやりました。これに対しては「長いのに内容にダブリがなかった」「筋が通っていた」という、評価の声が高かった。
同時に、私たちは無理筋の抵抗戦術には同調しない。こうした態度を貫きました。年金法案の最後の場面で民主党は副議長による「散会」戦術をとりましたが、わが党は同調しなかった。その結果として、共産党は年金大改悪の法案に本会議で反対討論を行った唯一の党になったわけですね。これを見てある政治評論家の人が「議会政治の基本をわきまえた見事な出処進退だった」「民主党と本岡副議長の行動について『参議院規則から見て無理がある』との市田書記局長のコメントはあの時点での名せりふだった」「自民、民主の国対関係者が『共産党の対応には負けた』と舌を巻いていた」。こういっていたことはひじょうに印象的でした。
国会戦術でも道理を貫く――このわが党の立場は、わが党が論戦で相手を圧倒するしっかりとした足場を持っている党ならではのことであるということを強調したいと思うのであります。
三つの角度からわが党が発揮した真価についてものべました。わが党の真価がどの分野でも明らかになった国会だった。このことは今後のたたかいにおおいに生かしたい。これは、国会議員団みんなの力で勝ち取った成果だったわけでありますが、国民にとってなくてはならないこの党が今度の選挙で前進しなくてどうするのかということがいま問われていると思います。
この国会で明らかになったそれぞれの政党の立場、そのなかでのわが党の真価――ここにしっかり自信と確信をもって、今度の選挙の前進のためにお互い持てる力を出し尽くす大奮闘をやろうではありませんか。ともにがんばりましょう。(大きな拍手)