2004年5月24日(月)「しんぶん赤旗」
南米ではベネズエラに続きブラジルやアルゼンチン、ボリビアやエクアドル、パナマなどで選挙を通じての政権交代が相次いでいます。多くの国でこれまでの親米政権にかわって自主的で国民本位の政策を掲げる政権が生まれています。その背景には、米国が押しつけた経済政策の破たんがあります。そんな南米の変化をどうみるか、歴史家でベネズエラのカラカス中央大学元教授のヘロニモ・カレラ氏に聞きました。(カラカスで田中靖宏)
世界的な視野からみれば、現在の変化は、強い国が弱い国に世界経済体制の矛盾を押しつけることから起きています。米国は危機打開のために、南米からの富の収奪を以前より大掛かりにやるようになっているのです。
長く中米・カリブ海を支配した米国は、第二次大戦後、ラテンアメリカ全体を支配しました。その支配のもとで、貧困、極貧困がすすみました。
深刻なのは人口爆発と都市化です。二十世紀の初めに三百万人だったベネズエラの人口はいま二千五百万人と八倍になりました。ブラジルも同じです。人口爆発で貧困が拡大し、人々は絶望的になっています。
以前は農村に生きてきた人々が、都市に出て、農民でも労働者でもない、仕事をもたない住民になっています。これはラテンアメリカに共通した現象で、都市計画もない不気味な混とんが広がっています。
大量移民が生まれ、政治的抗議と無政府状態が生じています。各国の政府は、以前はこれを強権的な方法で抑圧しました。しかし世界的に民主化がすすんだ今、力による統治は難しくなりました。通信が発達し、弾圧はたちまち世界的な抗議を呼ぶからです。
スペインによる植民地支配のもとでは南米の人々はすべてスペイン王の臣民であり、同様な状況、同一性のもとにおかれていました。それが十九世紀の独立とともに分化と区別が始まりました。各国で国民国家の性格が強まり、各国がそれぞれ独自の発展の道を歩みました。革命路線のうえでもベネズエラ共産党が一九六三年に武装闘争を始めたときに、チリ共産党はこれには賛同せずに、平和路線をとり、アジェンデ政権をつくり出しました。
ところが今、米国が大陸全体を支配するようになって再び同一性のもとにおかれるようになりました。一世紀かけて形成された区別性、差別性が同一性に変わったのです。
たとえば白人が多いアルゼンチンは長い間、ヨーロッパ化の道を歩み、他の諸国と違った方向を追求しました。ところがその後、新自由主義の経済政策の破たんのなかで米国支配への反発が強まり、ヨーロッパ化の幻想を打ち砕きました。
いまラテンアメリカは再び同一の状況のもとにおかれるにいたっています。アルゼンチン人がハイチ人と同じように貧しくなったのです。そして米国への移民の洪水が生じ、国内的危機が広がっているのです。これが各国での政権交代の背景にある同一性の現象です。各国の問題はラテンアメリカ地域全体で同時的に取り組まなければ解決できなくなっています。
米国の支配にたいしてニカラグア人民は一九三〇年代と七〇年代に二回立ち上がりました。しかし簡単につぶされました。このほかメキシコ、グアテマラ、チリ、ボリビア、パナマなどで革命がおこなわれました。しかしその革命は一国だけで孤立していました。そのため帝国主義と内部の反動派によって一つ一つつぶされたのです。例外はキューバだけでした。
ところがいま、同一性と同時性をもったたたかいが始まっています。しかもそれが選挙を通じておこなわれていることも特徴です。このたたかいが勝利するかどうか、確実なことはいえませんが、新たな可能性が強まったことは確かです。