2004年5月14日(金)「しんぶん赤旗」
トヨタ自動車は、2004年3月期決算で、最終的なもうけを示す純利益が日本企業として初めて1兆円を超えました。トヨタ自動車が誇る「カイゼン」の名で何が起きているのでしょうか。
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「労働者、下請けに還元してくれ。だれのおかげで、こんなにもうけたんだ」「アホらしい。われわれには、なんのメリットもない」
“トヨタ初の純利益一兆円超”のニュースが流れた十二日、愛知県豊田市内のトヨタ自動車で働く労働者からこんな声がこぼれました。トヨタはこの三年間賃金のベースアップをしていません。
「非常識への挑戦」。こんなスローガンでトヨタはこの数年、これまでとは、けた外れのコスト削減に労働者・関連企業を駆り立ててきました。“乾いたタオルを絞る”といわれるほど徹底したコスト削減を行ってきたトヨタが、従来の延長線ではないコストダウンをするとは、並大抵のことではありません。
その内容は、わずか五、六年間で、コストを半減するというすさまじさです。
二〇〇〇年に始まった「CCC21」戦略は、三年間で平均三割のコストダウンを目標とし、実際に七千五百億円の削減を達成。工場の生産性や下請け・関連企業の部品コストなど、あらゆる分野が対象です。引き続く第二弾「BT2」戦略は、国内全工場を対象に、〇三年から二、三年間で平均三割近いコスト削減をめざしています。ある職場では今後人員を23%削減し生産台数は23%増やす方針で、約160%の労働強化にあたります。
トヨタの社員はこの五年間で六千人減少し、かわりに増えているのが期間従業員(有期雇用)や請負・派遣労働者です。〇三年初めに六千数百人だったのが、現在約一万人に達しています。
結果、長時間労働が横行し、労働者の健康破壊は深刻です。過労死を訴える遺族が相次いでいます。
豊田労働基準監督署が〇一年に行った事業所調査(ほとんどがトヨタと関連企業)では、過労死認定基準である月四十五時間を超える時間外労働をしている労働者がいる事業所は80・5%もありました。年間実労働時間が最も多い労働者は三千六百五十時間で、政府の国際公約である千八百時間の二倍以上でした。
トヨタ本社の従業員数は六万六千人(昨年九月)。連結子会社を入れても二十六万人余り(同)です。業界で世界一位のGM(米ゼネラル・モーターズ)の三十五万人と比べても、経営は「効率的」にみえます。
ところが実は、連結子会社の五百五十四社以外にも無数の中小下請けが存在します。下請けに対するコスト削減圧力をバネに巨額の利益をひねり出しているのです。
トヨタ本社(愛知県豊田市)のある同県西三河地域では、製造業に占める輸送機器(大半が自動車)の割合は出荷額で74%、従業員数で55%に達します。本社が利益を伸ばす中、下請け経営者の悲痛な叫びが聞こえてきます。
「トヨタに三千万円の機械を二千万円にしろと言われ、なんとか仕上げた。今度は一千万円にしろと言ってきた。こんなことが許されていいのか」(トヨタ取引企業の経営者)
「受注状況は好転しているが、実質的な利益はむしろ下降している」(岡崎信用金庫発行の調査月報の「声」欄)
「『こんな値段で?』ということが多い。…受注単価が安いので、外注に出そうと思っても見つからない」(愛知中小企業家同友会の景況調査)
おひざ元の豊田市には約四千六百社の中小企業がありますが、そのうち赤字企業は72%。地元経済にとっても、「潤っているのはトヨタ本社だけ」というのが現状です。
トヨタ自動車の二〇〇四年三月期の当期純利益(最終利益)は一兆一千六百二十億円となりました。前年度より54・8%も伸びました。営業利益も前年期比31・1%増の一兆六千六百六十九億円に上っています。
全売上高は十七兆二千九百四十八億円に達しています。その主役は海外です。海外での売上高は、全売上高の66・5%を占めています。とくに北米は、35・3%となっています。
わずか一日で三十二億円もの純利益を稼ぎだすトヨタ自動車。会長の奥田碩氏は、小泉自・公内閣の「構造改革」路線を打ち出している経済財政諮問会議の民間議員です。
奥田会長は、大もうけにあきたらないとばかりに、十一日に開かれた経済財政諮問会議では、ほかの民間議員とともに法人税減税の検討を要求しました。竹中平蔵金融・経済財政担当相もこの要求に積極的に答える姿勢を示しています。
奥田会長は、日本経団連の会長でもあります。同会は、奥田会長が旗を振り、二大政党制を「人為的」につくりあげ、政策をカネで買う企業献金「あっせん」を再開。年金「改革」問題では、社会保障の企業負担軽減を狙って、財源には消費税を充てることを提唱してきました。この要求通りに自民、公明の与党と民主党との「三党合意」は消費税大増税への道を開きました。
国民の富は吸い上げられ、のさばるのは巨大企業ばかりです。