2004年5月12日(水)「しんぶん赤旗」
亀井善之農水大臣は十一日の閣議後の記者会見で、諫早湾干拓事業潮受け堤防排水門の中長期開門調査について、実施しないことを正式に表明しました。漁連や漁業者、市民・環境団体は「中長期開門調査をせずして有明海再生はない」と激しい批判の声をあげています。
同調査は、諫早湾干拓事業が有明海異変を引き起こした決定的原因だと指摘されるなか、その因果関係を検証するもので、同省自身が設置したノリ不作等調査委員会(第三者委員会)が提言していました。
同調査実施を求める声は、佐賀、福岡、熊本の三県議会、三県漁連がこぞって要望するなど、沿岸漁民、住民が繰り返し示してきた総意であり、全国からも、いくつもの環境団体が実施を求めてきました。
亀井大臣は、実施しない理由を「有明海の漁業環境に影響を及ぼす可能性がある」「被害が生じないようにするには相当長い歳月が必要」「調査の成果も明らかではない」としました。開門調査の代替策として、環境変化のしくみを解明するいっせい観測などの現地調査や調整池の排水の抜本的な改善対策をすすめるとのべました。
佐々木克之・元中央水産研究所室長の話 農水大臣は見送りの理由として、コンピューターで計算した結果、漁業被害がでる恐れがあり、その対策に長時間かかるからだという。しかしこの計算結果はまったく公表されていない。短期開門調査(二〇〇二年春実施)の際はコンピューターで予測して、結果を公表しているのに、なぜ今回は公表もしないのか。これでは納得のしようもない。少なくとも漁業被害がでるという根拠を公表すべきではないか。
漁民中心の市民団体は慎重な開門操作をすれば、被害は最小限にとどめられ、多額の費用も工期も必要ないと提案している。漁業者からの真剣な提案も聞く耳もたないというのであれば、最初に見送りありきといわれてもしかたがないのではないか。
見送りと引き換えに調査の代替案や調整池の水質など環境改善策が提案されているが、原因を解明せずに行う対策は予算の無駄遣いになるし、環境をさらに悪化させることもある。原因解明なしの有明海の再生はありえない。まず開門調査を実施すべきだ。
福岡県有明海漁連は、荒牧巧会長が声明を出し、「強く抗議する」とのべました。荒牧会長は、「有明海再生のための中長期開門調査の実施は、沿岸漁民のみならず、沿岸地域の方々の切なる願い」として、こんごも開門調査の実施を訴えていくと表明しました。
諫早湾干拓工事差し止めを求めている「よみがえれ有明訴訟」の弁護団は声明で、開門調査なしには環境変化の仕組みの解明はありえないし、場当たり的な改善策では有明海の再生は不可能と指摘し、開門調査を実施すべきだとしています。
漁民市民ネットワークの松藤文豪代表(大牟田市のノリ漁業者)は、「沿岸漁民を見捨てたのと同じだ。これまで訴えてきたのは、なんだったのか」と、怒りをあらわにし、「水門が開くまでがんばりぬく」と語りました。
仁比そうへい・日本共産党参院比例候補の話
大臣は、自殺が相次ぐ漁民から希望を奪うのか。開門調査以外に有明海再生の道はない。開門による被害やコスト論は既に破たんが明らかである。農水省は、漁民と市民の声、全会一致の三県議会の決議の重みをうけとめ、直ちに開門を決断すべきだ。
有明海奥部にある諫早湾を干拓して農地をつくる国営事業。一九八六年に総事業費千三百五十億円で着工。二〇〇〇年完成予定が二〇〇六年になり、事業費は二千四百六十億円と二倍近くに膨らんでいます。諫早湾の三分の一も閉め切って広大な干潟域をつぶしたために、海の浄化力や魚の産卵・生育場が奪われ、有明海の潮流など海洋環境が激変。環境破壊と無駄遣いの典型的公共事業といわれます。