2004年5月11日(火)「しんぶん赤旗」
インターネットを通じてパソコン間でファイルを共有するソフト「Winny」(ウィニー)を開発し、映画や音楽、ゲームソフトなどを違法にコピーできるようにしたとして、京都府警ハイテク犯罪対策室と五条署は十日午前、著作権法違反ほう助の疑いで東大大学院情報理工学系研究科助手の容疑者(33)を逮捕、自宅など数カ所を家宅捜索しました。
ファイル共有ソフトの開発者を逮捕したのは国内で初めてで、今後論議を呼ぶのは必至です。
同容疑者は極めて匿名性の高い機能を有する新しい共有ソフトを開発し、ネットで無償配布することを電子掲示板で告知していて、府警はソフトが違法な複製に利用されるとの認識があったとみて、逮捕に踏み切りました。
調べによると、同容疑者は二○○二年五月、開発したウィニーをネットで無料で公開。昨年十一月に京都府警が逮捕した群馬県高崎市の自営業者と松山市の少年の二人に対し、ゲームソフトと映画のデータをダウンロードできる状態にさせ、著作権の侵害を手助けした疑い。同容疑者は「結果的に自分のやった行為が法律とぶつかってしまうのなら仕方がない」「違法コピーに企業自身の努力で対応しようとしない現状を崩すために、ネット上で違法コピーをまん延させるしかないと思った」などと供述しているといいます。
ファイル共有ソフト「ウィニー」をめぐっては、違法コピーの温床としてソフト自体が違法との指摘がこれまでにもありました。その一方で開発や使用そのものに違法性はないとの見方も強く、刑事事件に発展するのは世界的に見ても異例です。
民事訴訟では欧米で最近、ソフト開発者が違法コピーの責任を負う義務はないという司法判断が相次いで出ています。
米国では昨年、業界側がファイル交換サービス会社を相手取った訴訟で、ファイル共有ソフトは「ビデオデッキと同じ」として、開発自体の違法性を否定する判決が出ました。二○○二年にはオランダでも同様の判決がありました。ファイル共有ソフトも個人使用でファイルをコピーしている限りはビデオなどと同じで、ビデオ自体に罪はないという判断です。
米国では違法コピーに対する罰則強化の動きはありますが、ソフト開発は規制対象になっていません。
今回の摘発については、作詞家、作曲家など著作権者側からは歓迎する声がある一方、ソフト開発の刑事責任追及について疑問を呈する専門家もいます。
著作権法違反ほう助の罪に問うためには、開発者が違法性を認識し、違法コピーの拡大を目的とする開発だったことを立証する必要があります。
すでにウィニーはバージョン2まで制作され、利用者数は数十万に達したとみられており、今回の事件の影響は小さくありません。
それだけに今後、著作権保護のあり方と国民の意識、ソフト開発にまで刑事責任を追及するかどうかなど、真剣な論議が必要になってきます。
Winny(ウィニー) インターネットを通じたファイル交換ソフトの一種。二○○二年に日本で開発され、匿名掲示板「2ちゃんねる」の利用者を中心に広まりました。特定のサーバーを使わず、暗号化されたファイルが自動的に複数の利用者間でリレーされていく方式のため、ファイルがどこで送受信されているのか特定しづらく、極めて匿名性が高いのが特徴。著作権法違反のファイル交換の温床との指摘が出ていました。最近はウィニー利用者のパソコンに感染してハードディスク内のファイルを流出させるウイルスも広まっており、警察の捜査情報が出回る事件も起きています。