2004年5月9日(日)「しんぶん赤旗」
米太平洋軍のファーゴ司令官が3月末に、米海軍横須賀基地(神奈川県)を母港にする通常型空母キティホークに代わって原子力空母を配備する意向を示唆してから、日本国内では懸念や反対の声が広がっています。なぜ今、原子力空母の配備なのか。
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問題のファーゴ司令官の発言は、三月三十一日に米下院軍事委員会で開かれた公聴会でありました。
オーティス議員 まもなく空母キティホークが退役する。日本は、その際の原子力艦の配備受け入れについて何らかの動きをしているのか。
ファーゴ司令官(海軍大将) キティホークは二〇〇八年ごろに交代する予定だ。それが期限だ。われわれは、キティホークを最も能力の高い空母の一つと交代させることを望んでいる。
ファーゴ司令官は、日本への原子力空母配備に関する質問に対し、キティホークが退役する〇八米会計年度(〇七年十月―〇八年九月)以降も、日本に空母の配備を続ける意向を言明。その際、キティホークを「最も能力の高い空母」と代えたいとして、原子力空母の配備も否定しなかったのです。
ファーゴ司令官の発言は、ブッシュ米政権が進めている世界規模での米軍態勢再編の下で取りざたされてきた、西太平洋地域での空母二隻体制の構想を公式に裏付けるものでもありました。
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ブッシュ政権は二〇〇一年の9・11同時多発テロの直後に「四年ごとの国防見直し」報告(九月三十日)を発表しました。同報告は「奇襲攻撃や策略、非対称的な戦争に頼る敵対者を抑止し、打ち破る」ため、米軍の海外配備を拡充する「前進抑止態勢の強化」を重視。海軍戦力については「西太平洋での空母戦闘群のプレゼンス(存在)を増大させる」としていました。
同報告に基づき米海軍は、空母を新たにハワイかグアムに前進配備する構想を検討。こうした動きに対し「キティホークの後継空母の母港が横須賀からハワイかグアムに移るのではないか」という憶測も流れていました。
しかし、ファーゴ司令官は将来にわたって空母の日本居座りを続ける意向を言明したのです。
空母の居座りは、日本を、米国の無法な先制攻撃戦略の重要な海外出撃拠点として恒久化することになります。
横須賀を母港にしているキティホークはこれまでも、イラク戦争やアフガニスタンでの対テロ戦争に同基地から出撃し、参戦してきました。
しかも、ブッシュ政権が進める世界規模での米軍態勢の再編では「駐留地域内だけでなく、域外にも焦点を合わせる」ことが重要な柱の一つになっています。西太平洋地域での空母二隻体制の下、日本からの地球規模での遠征出撃がいっそう推進されることになりかねません。
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加えて、ファーゴ司令官が示唆したように、横須賀への原子力空母配備の危険が迫っています。
米海軍は現在、十二隻の空母を運用しています。このうち原子力空母は十隻。通常型空母はキティホークとジョン・F・ケネディの二隻です。キティホークが退役すれば、通常型空母はケネディだけです(表)。キティホーク退役後の横須賀への原子力空母配備の可能性は濃厚です。
実際、キティホークに代わる原子力空母について具体的な指摘もあります。
米議会調査局の報告書(〇二年二月)は、原子力空母ジョージ・H・W・ブッシュについて「キティホークの交代として二〇〇八年に就役する予定だ」と指摘しています。
最近では、世界平和研究所(会長・中曽根康弘元首相)の研究員だった米陸軍中佐が、日米同盟の強化に関する論文を発表(今年一月)。「日本国民は今後二、三年で、キティホークの交代として海軍横須賀基地に原子力空母カールビンソンを受け入れるかどうかを決めなければならない」「もし日本国民が“核カード”を使ってカールビンソン(の配備)にためらうなら、…日米同盟に劇的に否定的な影響をもたらす」と主張しています。
日本政府は、ファーゴ司令官の発言について「わが国の防衛、極東の平和と安全のために米国として役割を果たす上でいわば当然のことを述べたものだ」(海老原紳・外務省北米局長、四月二十一日、参院決算委員会)などとし、容認する姿勢を示しています。
日本共産党のはたの君枝議員は、同委員会で「原子力空母は受け入れられないと米国政府に言うべきだ」と強く迫りました。
日本共産党は「横須賀に原子力空母を未来永劫(えいごう)居座り続けさせる計画は絶対に許せない。空母母港化返上の声を今こそ上げよう」(志位和夫委員長)と呼びかけています。
東京湾の玄関口に巨大原子炉 基地被害永続化へ横須賀が米空母の母港にされたのは一九七三年十月。以来、日本は三十年にわたり、米空母機動部隊に海外母港を提供している世界で唯一の国になってきました。 原子力空母の配備は、日本が遠い将来にわたって、世界に例のない“米軍基地国家”というべき異常な事態に置かれ続けることを意味します。それは、原子力空母の母港化に伴う基地の強化、基地被害のいっそうの拡大・永続化にもつながります。 もともと横須賀の空母母港化は、基地の拡大・強化、基地被害の増大・深刻化に不安を抱く日本国民を欺いて進められてきたものでした。 横須賀の空母母港化にあたり、政府や米軍は「(配備期間は)おおむね三年」「新たな施設・区域の提供を要しない」「原子力空母の寄港は現在は全く考えられていない」「日本に経費的な負担をかけない」「空母艦載機の離着陸訓練は実施しない」などと説明しました。ところが、これらの約束はことごとくほごにされました。 米海軍は、空母艦載機による夜間離着陸訓練(NLP)を八二年に厚木基地(神奈川県大和市、綾瀬市、海老名市)で開始しました。八四年には原子力空母が横須賀に初寄港。八七年には日本政府が「思いやり予算」を使い、緑豊かな池子の森(同県逗子市、横浜市)を破壊する米軍住宅の建設を強行しました。 しかも、現在、原子力空母の配備をにらむかのように、基地強化の動きが進んでいます。 横須賀基地では、空母が停泊する十二号バースの延長拡幅工事が「思いやり予算」で進行。昨年七月には日米両政府が、池子米軍住宅に八百戸を追加建設することで合意しました。昨年末には、従来の空母艦載機よりも強力な推進力を持つ最新鋭の戦闘攻撃機FA18Fスーパーホーネットが厚木基地に配備されました。 横須賀が原子力空母の母港になれば、巨大な原子炉を持つ艦船が首都圏に居座るという初めての事態にもなります。 横須賀では米原子力潜水艦の寄港が恒常化していますが、原子力空母が配備されれば、修理などに伴う放射能漏れ、放射性廃棄物による土壌・海水・大気の汚染、原子炉事故などの危険ははるかに大きくなります。 |
原子力空母 通常型空母との最大の違いは動力です。通常型空母は蒸気タービンで、ディーゼル油を燃料にしています。原子力空母は原子炉です。日本国内で稼働している原子炉一基あたりの熱出力(約百万キロh)に匹敵します。 原子力空母は、通常型空母のように燃料を貯蔵する必要がありません。このため、艦載機のための燃料積載量が二倍以上に増え、戦闘機が使用する兵器の搭載スペースも増大しています。 一隻あたりの建造費用は五兆円以上かかり、「世界でもっとも高価な兵器」(米会計検査院)です。 |