2004年5月5日(水)「しんぶん赤旗」
田中真紀子元外相の関連企業が所有する新潟県長岡市の千秋が原(旧信濃川河川敷)南側の土地利用計画で、市は七日にも大型ショッピングセンターなどの開発計画に正式同意する予定です。この地は故田中角栄元首相の金脈問題の典型とされ、世論と長年の市民運動で営利目的利用を抑えてきましたが、森民夫市長の方針転換は市民意見を軽視し、田中側に暴利を得さしめるのではないかと批判の声が上がっています。
新潟県・村上雲雄記者
「長年の運動で市民の手に取り戻した土地だから公共的なものを計画すべきだったのにこんな営利目的の計画に同意するとは。森市長は市民の方に顔が向いていない。景観がすばらしく、今まで美術館やホール、医療・福祉ゾーンとして利用されてきたのに、大型店ができたのでは市民がなごむ環境も台無しになる」
こう語るのは、長年信濃川河川敷を見守り、医療・福祉の運動にとりくむ石黒三沙子さん(78)です。
問題の土地は、まだ利用が決まっていなかった四カ所の計十七ヘクタールの部分(地図参照)で、大型ショッピングセンターと流通大手のユニー(愛知県)、シネマコンプレックス(集合映画館)として東映(東京都)などが進出します。
同市は大型店の売り場面積が七割を占め県下一。そのため、中心商店街は深刻な影響を受けています。さらに売り場面積二万五千平方メートルもの大型店ができれば大打撃になることから、市が検討委員会で論議している途中で商工会議所や商店街連合会から反対が起きました。近接する場所にジャスコなどの大型店があるため、今でも交通渋滞や環境問題も懸念されています。
千秋が原は、三十七年前に田中元首相のファミリー企業、室町産業が「どうせ水につかる土地」と坪五百円で買い占めた疑惑の土地。その後、新堤防ができたことで地価が上がり、今では一千倍にも。開発計画が実現すると、借地なら数億円、売却なら百億円単位の金が田中側に入ります。この土地をめぐっては、自分の土地をだまし取られたとして農民が裁判を起こし最高裁まで争いました。形の上では敗訴でしたが、判決では政治家のモラルとして田中元首相をきびしく断罪しました。
当時、日本共産党の上田耕一郎副委員長が取り上げるなど、マスコミ・国会でも大問題となり、三木首相は国会答弁で利用にあたっての三原則(国会三原則)を提示。市も田中ファミリー企業との間で「覚書」を交わし、事前協議と公益利用優先とすることを条件づけられました。こうした中で田中側は北半分の土地を市に八億円で売却し、公共利用を進めてきました。
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森市長は「最高裁判決で金脈疑惑がないことが確定している」「公益利用とは市民が喜ぶもの」とねじまげ、田中側の計画の認知を強行してきました。同計画は、千秋が原地区を教育・文化交流、医療施設の拠点地区と位置付けている市の都市計画マスタープランにも違反したものです。
国土交通省と協議の際に同省は、マスタープランとの整合性をはかるよう指示。二〇〇三年二月、扇千景国土交通相(当時)も、日本共産党の木島日出夫前衆院議員への国会答弁で「国会三原則」と覚書の意義を改めて表明しています。
信濃川河川敷問題共闘会議の加藤良夫議長は「市長の見解は専門家が三年がかりでつくりあげたマスタープランを覆し、信濃川河川敷の歴史的経過をわい曲し、まったく無視するものだ。市民が喜ぶものならよいというならなんでもよいことになる」と批判します。
計画が浮上してから、同共闘会議と「千秋が原南半分の公益利用を進める会」、日本共産党中越地区委員会は、繰り返し公益利用を要請。この問題を広く市民に知らせ、商店街連合会の人たちとも懇談、シンポジウムも開きました。商店街連合会のとりくみや市民運動の結果、森市長は新たな中心商店街振興策を策定することを約束しましたが、計画同意の意思は変えていません。
「公益利用を進める会」の加藤栄二代表は「市長は市民意見を聞いたと言っているが、歴史的経過も知らせず、ただ形式的に聞いただけの“結論先にありき”で市民合意を得たとは言えない。一九九九年の市長選で森市長は真紀子議員の支援を受けて当選しているからものを言えないのだと思う。今後も公益利用の立場から監視し、提案をしていきたい」と語っています。
土地利用にあたっての国会三原則 (1)原価プラス土地の造成費と金利(2)暴利を得たということのない措置(3)土地利用は公共優先とする―の三項目。これにもとづき、現在北側は「千秋が原ふるさとの森」や県立近代美術館、市民ホールとして利用され、南側も長岡赤十字病院、老人ホームなど医療・福祉施設として利用されています。