2004年4月29日(木)「しんぶん赤旗」
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日本共産党の志位和夫委員長は、二十七日放映されたCS放送・朝日ニュースターの番組「各党はいま」に出演しました。発言のなかからイラク問題と年金問題にかかわる発言を紹介します。聞き手は、朝日新聞論説委員の梶本章氏です。
梶本 イラク情勢ですけれども、人質五人が無事救出されたんですけれど、そのことをどう受け止めていますか。
志位 五人の方々が無事に解放されたというニュースを、大きな安堵(あんど)と喜びをもって聞きました。それから、内外で救出のためにがんばられた方々に心から敬意を表したいと思います。
梶本 救出後を含めてこの事件をみますと、日本国内では「自己責任論」というのが強く出されてきています。海外のほうが、アメリカの閣僚やフランスの新聞など、むしろ若い人がボランティアあるいはNGOなどに行かれることにたいして評価している。日本と海外、評価が分かれたんですけれど、どうごらんになっていますか。
志位 私は、海外の論評のなかに非常に冷静な、そして問題の本質をよくとらえた論評があるということに注目しています。
さきほどフランスの話をされましたが、(フランスの新聞)ルモンドが論説の中でこういっているんですね。
「(日本に)人道的価値に熱意をもった若者がいることを誇っていいし、彼らの純真さと無鉄砲さは、この国の必ずしもいつもよいとはいえないイメージを高めるものなのに、日本の政治指導者は保守派マスコミと一緒になって解放された人質の『無責任』さを勝手放題にこき下ろすことに汲々(きゅうきゅう)としている」
これはなかなか痛烈な批判だと思います。私は、この問題は、「二つの日本」があるということを世界に示すものとなったと思うんです。
一方に、「人道的価値に熱意」をもった勇気ある若者が日本にいるということを世界に示すことになった。ただもう一方に、自衛隊派兵に固執するあまり、ルモンドの表現をかりれば、その若者たちを「勝手放題にこき下ろす」「政治指導者」たちがいる。こうした「二つの日本」を世界に示したものとなったと思います。私は、この「二つの日本」のうちの、どちらに未来があるかは明りょうだと思います。
私は、日本がいま誇りにすべきは、自衛隊派兵に反対する世論や運動が日本国内に大きく広がっていること、それからみずからの情熱をかけて人道支援に献身しようとする若者たちが日本にいること、このことこそ大いに誇るべきだと思っています。
梶本 イラクの情勢にしても、米軍と武装勢力のあいだで停戦交渉がおこなわれたということ――これは戦争がおこなわれていたということですね。サマワの方をみても、日本のマスコミの人たちに危ないから出ていったほうがいいのではないかと勧告が出された。(自衛隊派兵で)想定した状況と違うような気がしますけれど、そのへんはどう分析していますか。
志位 私は、重要なことが、二つあると思うんですよ。
一つは、米軍による軍事占領が大きな破たんに陥っているという問題です。ファルージャでたいへんな虐殺があったということを世界が知りました。六百人以上の女性、子ども、お年寄りが無差別に、報復的な軍事作戦によって殺害されるという事態があった。このことが焦点になって、イラク全土で独立イラクを求めて国民が立ちあがる。その立ちあがった国民を、米軍が弾圧し、米軍対イラク国民という構図が鮮明となり、非常に重大な新しい局面に入ってきているという状況が一つありますね。
この事態にさいして、無法な軍事弾圧の即時中止とともに、軍事占領をやめて、国連中心の枠組みにすみやかに移行して、イラク国民による自主独立の国づくりを支援するということに切りかえることが、いまきわめて大事になってきています。
もう一つはっきりしたことは、自衛隊派兵の根拠が総崩れになったということです。
「サマワは安全だ」、「非戦闘地域だ」といって出したわけですが、自衛隊の巨大な陣地を標的にして、すぐそばまで迫撃砲がうたれる。オランダ軍の陣地の中に迫撃砲が着弾する。占領当局の事務所が爆破攻撃にあう。このなかで、自衛隊は、陣地にたてこもってほとんど外に出られないという状況ですね。自衛隊が出られないということは、まわりじゅうが戦闘地域になったということを、みずから証明する行動です。「戦闘地域には送らない」という政府の言明にてらしても、自衛隊派兵を続ける条件はなくなった、すみやかな撤兵がいよいよ急務です。
さらにイラク国民の世論で注目しているのは、シーア派とスンニ派とイスラム教の二つの宗派があるわけですけれども、両方の指導者が「人質(をとること)はよくない、すぐ解放しなさい」といいながら、自衛隊派兵は反対だとそろっていいましたね。これは、イラク国民のかなりの総意だと思います。サマワの世論でも、アル・サマワという地元新聞が、最近、世論調査をやって、51%のサマワ市民が「自衛隊は利益になっていない」と。サマワの市民にまで、過半数から、自衛隊は役にたっていないといわれているわけです。
こういう状況のままで派兵をつづければ、イラク国民全体を敵にまわすことになり、とりかえしのつかない事態に足を踏み入れることになる。撤兵を決断すべきときだということを強くいいたいですね。
梶本 この問題は、アメリカが「有志連合」という形で、イラクに攻めこむということが出発点にあったわけですが、日本政府、小泉政権はそれをいち早く支持した。自民党のなかからも早計だったのではないかという声があがっていますが、そのへんはどんなふうにみていますか。
志位 もともと国連の支持がない、アメリカが勝手にはじめた侵略戦争だったわけです。世界百九十一の国連加盟国のうち、アメリカが一生懸命数えても、支持したのは四十九しかなかった。いわゆる連合軍という形で軍隊を送っているのは三十六しかなかったわけです。
一年たってみて、占領支配が大きな破たんにおちいるなかで、私がちょっと数えただけでも、撤退声明をしている国がスペインを筆頭に七つ、撤退の検討をしていると伝えられている国は六つ。あわせて十三の国が撤退表明ないし検討ということですから、三十六の軍隊を送っている国のうち、だいたい三分の一は崩れつつあるという状況ですね。世界の流れでみても、無法な戦争と占領支配がいよいよ孤立したという状況だと思います。この流れを、小泉政権はよくみるべきだということをいいたいですね。
梶本 アメリカも、想定したように占領政策がうまくいかない。ブッシュ米大統領もイギリス首脳と会談し、手におえないと、国連の枠組みのなかでやっていきましょうと、こういうようなことを表明していますが、このへんの見通しは。
志位 これは、一面では、米軍の占領政策の破たんなのです。自分たちだけでは手におえなくなったということをみずから告白している点では破たんなのです。
しかし、もう一面では、それでは米軍が占領軍の指揮権を、たとえば国連のもとに置いて、そして撤退するという方向を考えているかというと、そうではないということもまた事実なのです。
私は、スペインのサパテロ首相が撤退をきめた理由がどこにあったかについて、スペインのムンドという新聞のインタビューでこたえているのが非常に印象的だったのです。サパテロ氏は、結局、米軍が占領軍の指揮権を手放そうとせず、国連が主権移譲過程において全責任をおう可能性はないと判断した。この判断がどこからきたかというと、(スペイン新政権の)ボノ国防大臣が米政府高官と会談したさい、米政府高官は、「十三万の米軍が米軍の将軍ではないだれかに指揮されるなどということがあると考えているのか。そんなことはありえない」ということをいったために、「明確な結論」にスペイン政府は達したと。ここで見切ったわけですね。
いま現に、十三万の米軍がイラクに占領軍としているわけです。この米軍がいすわって、その指揮権はどんなことがあっても譲らないぞ、国連のもとにも入らないぞ、占領軍の指揮権は米軍が握りつづけるのだという態度をアメリカがとりつづけるかぎり、解決の道は開かれてきません。この立場をあらためないと、ほんとうの意味での国連中心の枠組みというのはつくれない。ここがいまのせめぎあいの一つの焦点だと思います。それをいま国際社会は強くいうべきだと思いますね。
梶本 そうしますと、国連の枠組みができるかどうかは一本道ではないという認識だということですか。
志位 ええ。同時に、そこにしか解決策はないということも間違いありません。
梶本 国連の枠組みがかりにできたとした場合、今度は自衛隊の位置付けがかわるのではないかと思います。民主党も、国連の枠組みのなかでいくのであれば、またこれは考えられるといっていたわけですけれども、共産党の立場はどうですか。
志位 私たちは、かりに国連の枠組みができたとしても、日本には憲法九条がありますから、海外への派兵はできないという立場です。
もう一ついいますと、国連の枠組みがかりにできたとして、治安維持に必要な部隊が必要になったとしても、イラク戦争にかんして中立的な立場をとった、あるいは反対の立場をとった国々が主体にならないと、イラク国民との関係でもうまくいかないと思います。そういう問題もあると思います。
梶本 そうすると、国連の枠組みができたとして、イラクをきちんと復興して独立のイラクをつくろうというプロセスがはじまった場合の日本の支援というのはどういうものですか。
志位 これは自衛隊以外の非軍事の支援――文民、NGO、ボランティアによる支援を大いにやるべきでしょう。軍隊ほど人道支援にむいていない組織はないわけで、ボランティアやNGOの方が、たとえば給水ひとつをとっても、効率的な大きな仕事ができるということは、現状でも明らかです。そういうNGOやボランティアの方々の活動への支援をはじめとして、やれることはたくさんあると思います。
梶本 国会の方は年金改革法案の衆院通過をめぐってかなり緊張しているわけなのですけれども。まずその政府案について、これは朝日新聞の調査でも67%ぐらいの人が評価しないということであまり評価されていないのですけれども、政府案の問題点がどこにあるのかということですが。
志位 私は、三つの大きな問題点があると思っています。
第一の問題点は、十四年連続の年金の保険料の値上げです。これは国民の暮らしを圧迫するだけでなく、年金の空洞化をひどくするという点でも、きわめて重大です。国民年金をとってみても、一千万人をこえる人が未納、免除、未加入という形になっているわけですね。未納者のうち六割の人は、「保険料が高すぎて払えない」といっているわけです。こうしたもとで、どんどん値上げをすすめるということになれば、空洞化がどんどんすすむことになる。厚生年金をとってみても、新設の事業所の二割は厚生年金に未加入なんですね。どんどん空洞化がすすむ。安心できる年金の仕組みをつくるどころか、逆に土台を壊すということになる。これが第一点です。
二つ目は、15%の給付カットです。厚生年金も国民年金も一律にカットする。党首討論でもとりあげたんですが、これは国民の生存権の侵害となる暴挙です。いま国民年金でいうと月額平均四万六千円です。これを15%カットするということになりますと、実質三万九千円までカットするということになる。これでは生きていくことができないということになる。生存権の破壊です。
それから三つ目は、財源の問題ですが、政府の立場は、年金財源と称して、まず年金課税を強める、所得税増税をやる、それから「二〇〇七年をめどに消費税をふくむ抜本的税制改革をやる」というものです。消費税の増税ということです。仕上げは消費税増税ということに道を開こうということです。
この三つの大きな問題が私たちは政府案にあると思っています。ですからこれは廃案に追い込むしかないというのが私たちの態度です。
梶本 その点では民主党とも同じなんですが、他方、民主党案というのは(年金制度の)一元化ということが特徴なんですが、これについてはどういうふうに。
志位 民主党案をみますと、まず15%の給付カットという点では政府案と同じなんですよ。そして財源をどうするのかということについては、消費税を二〇〇七年から8%に引き上げると。しかし消費税というのは、立場の弱い方々に重くのしかかる税金ですから、これをもって年金の財源にあてるなどというのは本末転倒です。さらに、民主党案というのは大企業の負担増は一切もとめないというものになっていて、いちばん財界が喜ぶ案になっている。私たちは、政府案と「どっちもどっち」という案だと思っています。
梶本 共産党案というのを知らない人もいると思うので、どういうところが特徴なんですか。
志位 私たちは、いまの年金のいったいどこが問題かということをきちんととらえた改革が必要だといっています。一つは、あまりに額が少ない。国民年金で、平均四万六千円、二万円や三万円の方も、無年金の方もいる。厚生年金でも、女性の場合は半分が十万円以下です。あまりにも低年金です。もう一つは、さきほどのべた空洞化です。年金制度から排除されてしまう方が増えている。低年金と空洞化こそ、いま解決すべきいちばんの問題だと思います。
これを解決するには最低保障年金制度をどうしてもつくる必要があります。私たちは、国民すべての方々に月額五万円の最低保障額を保障する年金制度を土台部分として、これを国費でつくる。その上に掛け金に応じた給付の二階部分をつくるという制度を提案しています。
財源がいちばんの問題ですが、もちろん無駄遣い――公共事業や軍事費の無駄遣いを削るという問題がありますけども、あわせて、私たちは大企業に応分の負担をもとめるということを正面からいっています。ヨーロッパに比べると日本の大企業の税と社会保険料の負担割合というのはだいたい半分から七、八割という低さですから。世間並みの負担はしてもらおうじゃないかということを財源論として提起しています。
梶本 企業の方は税とか、社会保険料の負担が増えると国際競争やっていけないと(いっています)。一種の脅しじゃないかと思うんですけど、どうでしょう。
志位 私たちは、応分の負担――世間並みの負担ということをいっているわけで、過分の負担をといっているわけじゃないんです。たとえばフランスと比べると、日本の企業負担の重さは、だいたい半分程度でしかありません。しかし、そのフランスにトヨタがいく、トヨタのフランスの会社ができたら、同じだけの税金と保険料を払っているわけです。それでちゃんと国際競争をやっているわけですよ。
大企業が世間並みの負担の責任を果たす。それによって年金が本当に安心できる制度になったら、それこそ経済も本当に草の根からあったまってくる。そうすれば企業の売り上げだって伸びてきますよ。そういう大きな視点にたって、企業は社会的責任をちゃんと果たすべきだということをいいたいですね。