2004年4月22日(木)「しんぶん赤旗」
衆参の厚生労働委員会で二十日、診療報酬改定をめぐる日歯(日本歯科医師会)の贈収賄事件の集中審議が行われ、衆院では三氏が参考人として出席しました。事件の舞台となった診療報酬改定を協議する中央社会保険医療協議会(中医協)の星野進保会長、日歯側からの収賄で副会長が逮捕された連合の笹森清会長、中医協の支払い側委員である健康保険組合連合会の千葉一男会長です。質疑を通じて明らかになったものは――。
「診療報酬改定で専門的議論を行うなど、貴重な存在だった。医療側に対等に意見を対置しえる適材の人物だ」。千葉氏は、元社会保険庁長官で中医協の支払い側委員だった下村健容疑者をこう評しました。同容疑者が、診療報酬をめぐる意見対立で日歯など医療提供側と渡り合える政治折衝の中心にいたことを浮き彫りにした発言です。
下村容疑者は、厚労省出身の天下り官僚。中医協の事務局も担う同省に大きな影響を与える立場にいました。千葉氏は、同容疑者が十年間にわたり中医協での折衝にあたっていたことを明らかにしました。
その絶大な影響力をどう行使したのかは、事件の全容解明の大きなカギとなります。この日の審議で追及されたのは、事件当時、厚労省保険局長だった大塚義治事務次官です。
大塚次官は、中医協での診療報酬の審議について「不自然なやりとりや特別な働きかけは聞いていない」と否定。坂口力厚労相は「委員には各団体から適任の人を推薦していただいている。厚生労働大臣としては特段の審査はしていない」と逃げようとしました。
ところが、笹森氏は「(中医協で)らちがあかないので別の場で政治折衝のようなことになり、支払い側も経営者団体と健保連が入り、労働側の代表が除外される、場外で決まるように感じられることがあった」と組織的な圧力を証言しています。
下村容疑者を中医協の委員に任命したのは坂口厚労相であり、全容解明責任、任命責任は重大です。
日歯側が、自らに都合がいいように支払い側に働きかけ、支払い側も見返りを前提にその要望にこたえる――この癒着の関係は、厚生行政の根本が問われる問題です。国民が納めた保険料をどう使うか、医療の質にかかわる診療報酬改定をカネの力で動かすことは、医療への信頼を裏切ることです。
このため連合の笹森氏もおわびを繰り返すことになりました。連合も健保連も社会保障などにかかわる政府の審議会に多数の委員を送っている組織として、今後の対応が問われます。
下村容疑者がかかわったのは、診療報酬だけではありません。同容疑者は介護報酬を決める社会保障審議会介護給付費分科会でも委員を務めています。
審議のなかで厚労省の中村秀一老健局長は、介護報酬の算定について「診療報酬と同じで考えてもらっていい」と答弁。中医協との違いといえば審議会の構成ぐらいであるとして、委員が幅広く学識経験者から選出されていることを強調しました。しかし、委員に下村容疑者がいることにはまったくふれず、厚労省内で真剣な自己反省がされていない実態を浮き彫りにしました。
日歯による贈収賄は、「かかりつけ歯科初診料」の緩和措置を実現させるために行われたといわれています。審議ではこの緩和措置を実施したことで初診料額が導入時の百六十億円(二〇〇〇年)から千七十億円(〇二年)へと急増したことも明らかになりました。
日本共産党の調査では、歯科診療報酬などを検討する小委員会が自民党内につくられ、日歯の政治団体である日歯連(日本歯科医師連盟)が小委員会の議員九人に三年間で一億二千万円を献金。中医協とは別に自民党議員を通じた「政界ルート」の存在が浮上しています。
厚労省の責任とともに、日歯・日歯連と政治家が結びついて厚生労働行政をどうゆがめたのか、徹底解明が必要です。
高柳幸雄記者