2004年4月12日(月)「しんぶん赤旗」
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全国一の二十七の県立病院を持つ岩手県。赤字と空きベッドを理由に、医療局は四月から、県立病院の縮小・診療所化を進めています。住民や行政などは「地域医療を守れ」と、各地で運動を起こしています。
「県立病院は、多くの無医村をかかえ、『せめて死ぬときだけでも医師に診てもらいたい』という住民の願いでつくられた実費診療所を母体としています」(県医療局労働組合が配布したビラ)。創立以来、五十年余の歴史を重ね、県内の全入院患者の三分の一、全外来患者の二分の一が利用しています。
ところが医療局は、医療圏で空きベッドが多くあるのが問題だとして、六千百二十七床あるベッドのうち、二〇〇八年度までに五百九十九床を削減。五病院では病棟(六十床)ごとにベッドを休廃止し、紫波、花泉、大迫、伊保内、住田の五病院を、〇六―〇八年度までに十九床以下の診療所にしようとしています。
それに伴い、三百八十七人の看護師や事務職員を削減し、医師の増員をふくめても全体で二百八十六人を減らします。
診療所化の最大の問題は、入院患者が追い出されることです。診療所化される五病院では、年間で約千二百人にのぼります。地域には県立病院以外に入院施設がなく、住民への影響は深刻です。
〇七年度に診療所化される大迫病院(大迫町)は、〇一年に二十億円余をかけて新築。五十二床あるうち、平均で約三十床が利用されています。
大迫町在住の川村住子さん(74)は、心不全で入院中の夫(77)の見舞いに毎日訪れます。「夫の治療は長引くと思う。ベッドが十九床に減り、入院できるのかと思うと、不安でいっぱいです。盛岡市の病院に行くにもバス代が往復二―三千円かかり、医療費の何倍も取られる」と嘆きます。
診療報酬の改悪で、患者はできるだけ早期の退院・転院を勧められます。川村さんも、中央病院(盛岡市)から昨年末に紫波病院に、二月に大迫病院へ。早期転院以外にも診療所化が加わることで、患者の不安がいっそう増しているのです。
日本共産党の藤原敬一町議は「一月にはかぜがはやり、ベッドが満床になった。町の老齢化率は三割を超え、老健施設も満杯の状態だ」と同病院の重要性を強調します。
縮小対象となった各地の住民は増田寛也知事と医療局長に、約十一万人の署名を提出。一戸町、住田町、大迫町、陸前高田市、岩手町などが、短期間に有権者の八―九割の署名を集約しました。
県立病院の充実・強化を求める県連絡会(いわて労連などで構成)も、県議会議長に四万六千人の請願署名を提出しました。
関係する十四市町村長は、増田知事や医療局長に計画の撤回を要請。二十の市町村議会が反対の意見書を可決しました。
日本共産党は増田知事や医療局長に計画の見直しを申し入れ。斉藤信県議は議会で、上からの病床削減をやめ、個々の病院の改革を進めることが必要だと指摘しました。
請願署名は県議会で不採択にされましたが、住民は納得していません。
慢性の肺気腫で大迫病院に入院中の男性(71)は強く訴えます。「なんとか計画を白紙に戻してほしい。行政のことは素人にはよくわからないが、立派な病院をつくったばかりで診療所にするなんて、税金の無駄遣いだ」
岩手県・三国大助記者
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医師不足で、北海道内の地域医療は深刻な事態に直面しています。日本最北端の街、稚内市(人口四万三千人)では、北大医学部が市立稚内病院・脳神経外科の医師二人を引き揚げたため、四月から「脳神経外科」の閉鎖に追い込まれました。
宗谷本線の終点、JR稚内駅のすぐそばにある市立稚内病院(高木知敬院長、一般三百六床・精神百床)。入り口案内板には「脳神経外科」が残っていました。二階の診察室前には「脳外科診療中止のお知らせ」の張り紙。ドアが閉じられ、中の照明は消えています。
金森勝事務局長は言います。「北大から医師引き揚げの話がきたのは昨年十月。驚きましたね」。院長がすぐ北大に駆け付け食い下がっても、「難しい」と断られました。すぐ旭川医大に「相談におじゃましたい」。同市まで約二百五十キロあります。返事は「来てもムダ足になる」でした。
脳神経外科は十二年前に開設。手術は年約五、六十件で、入院十九床はほぼ満床でした。二十四時間対応で、宗谷管内(一市九町村)の脳疾患患者も受け入れてきました。
稚内消防署では、市内救急患者のうち脳疾患と思える人は年八十人前後。その八割を市立病院に搬送したといいます。
市内には、救急指定ではないが脳神経外科を持つ民間病院があります。市は、市立病院から脳外科の看護師五人を、そこに一年間派遣して緊急時の対応を確保。希望する患者も移しました。
「何とか火を消さずにすんだ」という金森事務局長。しかし「高度医療の科が一つ無くなったことは市民にとって大変なこと。経営上も深刻ですよ」と気持ちは晴れません。同市の川上憲雄助役は「できれば再開したいが、いまのところ見通しが立たない」といいます。
医師引き揚げは、国が四月から臨床研修を必修化したことにより大学医局の医師不足が要因とみられています。三月の道の調査(日本共産党の大橋晃道議の質問で判明)では、地域医療を担う道内二十五病院で、大学病院から派遣医師の引き揚げ通告を受けました。
国の〇二年度病院調査では、道内六百二十九病院で医師数が標準数に達していたのは52・1%(全国75・0%)。特に深刻なのが市町村立病院(九十六病院)で、医師不足は九割(89・6%)に達しています。
宗谷医療圏の人口十万人当たり医師数は百四人。札幌圏(二百四十六人)の半分以下です。
市立稚内病院脳神経外科の閉鎖は市民に大きな不安を与えています。ホームヘルパーの常谷君子さん(66)は「市立に脳神経外科ができたとき、『よそへ行かなくても良くなった』とみんな喜んだんです。高齢者は、急患だけじゃなく糖尿や透析の合併症を防ぐためにも通っていた。困っている人多いですよ」。
「くも膜下出血で担ぎ込まれても対応できず、名寄市や旭川市まで走った時代(九二年以前)に逆戻りするのではないか」という人もいました。
道北勤医協・宗谷医院の三瓶峰智事務長は「医師がいま、都市と大病院に集中する偏在型になっている。国や道が地域医療に責任を持ち、若い医師が『地方で医療をやってみたい』と思うようなアピールがぜひとも必要です」と強調します。
ある医療関係者は、医師派遣で道立札幌医大の役割を指摘します。「地域への医師派遣に道が責任を持ち、一定期間、医師を公務員にして地方に配置する。地方医師は大病院で研修機会を保障するなど打つ手はある」
日本共産党稚内市議団は事態を重視し、市議会で(1)実態と情報を市民に広く知らせること(2)道に医師確保を強く働きかけること―などを提案し、事態打開に力を入れています。
北海道総局・富樫勝彦記者