2004年3月29日(月)「しんぶん赤旗」
警視庁公安部による「国家公務員法違反」を口実とした堀越明男氏の逮捕・起訴は、国際的にも人権に反した異常なものとして受け止められています。フランス労働総同盟(CGT)警察労組のミシェル・ガスタルディ書記長とエストニアの従業員組合連合のトイボ・ルーシマ委員長に聞きました。
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フランスでは選挙活動で特定候補者をひぼう中傷したり、集会などで人種差別発言をすると、法的な制裁を受けます。しかし、それ以外は、全く自由な活動が保障されています。
戸別訪問でビラを配布して、候補者の支援を訴えるのは当たり前の選挙活動です。現在も地方選挙で郵便受けが各候補者の政策ビラなどでたびたびいっぱいになります。
こうした市民的権利の行使は、国家公務員にも、勤務時間以外の活動である限り、十分に保障されていることはいうまでもありません。
国家公務員でも警察官の場合は一定の制約があります。それも勤務地の管轄地域での選挙活動が職務倫理規定に沿って禁止されているだけで、本人の居住地が勤務地と重なっていなければ、そこでの選挙活動は、職務と混同しない限り自由です。わたしも現職の公務員(刑事)です。
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堀越さんのケースは、勤務時間以外の日曜日・祭日に政治・選挙活動を行っただけで逮捕されたわけですから、普通の民主主義的な感覚からすれば異常です。しかも、彼は警察官ではなく、普通の国家公務員です。公務以外の時間帯に市民としてその権利を行使するのは、彼の市民的自由にかかわることがらです。
国家公務員と政治・選挙活動の自由に関連して、フランス人なら誰でも知っている国家公務員の例を紹介しましょう。革命的共産主義者同盟(LCR)の幹部で国家公務員(郵便局勤務)のオリビエ・ブザンスノ氏は、郵便局員として普通に勤務しながら、大統領選挙から議会選挙まで、本人が立候補し、勤務時間以外は、ほとんど政治活動や選挙活動のために使っています。そのことで、彼の市民的自由が制約されたということは聞きません。
(福間憲三=パリ在住 労働社会問題研究家 写真も)
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国家公務員が休日に政党の宣伝をしていて逮捕されるというのは驚くべきニュースです。人権と労働者の権利にとって重大な問題だと思います。
エストニアでは公務員が政党に入り活動することは自由です。自分の信条に基づいて発言し、行動することは、その人の権利であり、知性の発揮です。
今回の弾圧のニュースは、エストニアがソ連からの独立を達成する以前を思い起こさせます。
あの時代、表向きの権利とは裏腹に、口を開けば獄舎に入れられました。独立運動が活発になった一九八〇年代後半は別として、六〇年代、七〇年代は、政府当局を批判するようなことを言えば仕事を追われました。
日本の今回の事件では公安警察がからんでいるということですが、ソ連時代のわが国ではKGB(ソ連国家保安委員会)が力を持っていました。私が働いていた大学でも目を光らせており、同僚が殺されたこともあります。
今の独立エストニアでは、公務員には政治活動の自由のほか、軍人や警官を除きストライキ権も保障されています。昨年十二月には三万人以上が参加したわが国の歴史で最大規模のストを決行し、公共部門労働者の賃上げ12%を獲得しています。(タリン=田川実 写真も)
国公法弾圧・堀越事件 |
休日に一市民として、居住地の東京中央区で「しんぶん赤旗」号外ビラを配布したのが、「国家公務員法違反容疑」だとして、警視庁公安部が今月三日、社会保険庁目黒社会保険事務所の堀越明男さん(50)を不当逮捕、日本共産党千代田地区委員会などを家宅捜索した事件。東京地方検察庁は同五日、公訴権を乱用し、堀越さんを不当起訴しました。
国家公務員法は、公務員の政治活動を「政治的行為」という名で広範に禁止する内容をもち、憲法で保障された人権と自由を不当に制約する違憲性の強いものです。戦後の日本の民主化に歯止めをかけようとした米国の対日占領政策に由来するもので、国民的な批判を呼んできました。
同時に、今回の事件では、従来人事院も同法違反扱いしてこなかった、休日の居住地でのビラ配布を、弾圧の口実としたこともきわめて重大な問題となっています。
事件直後の四日、フランスの法律家団体「法と連帯」が「世界人権宣言から見て無効」とする抗議声明を発表したのをはじめ、国内外から、不当な弾圧への批判と抗議が広がっています。
起訴取り下げ、無罪をかちとる運動をすすめている「国公法弾圧を許さない会(準備会)」では、会の発足に向けて呼びかけ人を募り、裁判所への署名運動などに取り組もうとしています。