2004年3月28日(日)「しんぶん赤旗」
「消費税隠しだと思うんですよね」―。税込み価格の値札が目立ちはじめた店先で靴屋の女性(53)が語りました。四月から変わる消費税。何が変わるのでしょうか。山田英明記者
四月から消費税の総額表示が実施されます。これまで税額を除いて値段が表示してある商品は、税込みでの表示が義務付けられます。
なぜか。東京都内のある茶・菓子店の店頭には「いくら払えばいいのか、値札を見ればひと目で分かるようになります」と書いた財務省のポスターがありました。政府は、消費者の「利便性」を理由にしています。
前出の靴屋の女性は、値札を書き換えながら「これでは、値段が上がったと錯覚をおこしますよね」と話します。たしかに、税込み「1050円」の値札からは、消費税額が見えません。
すでに、酒税のかかる発泡酒やビールなどは、酒税込みの価格で表示されています。例えば、多くの人は、酒税四十七円を意識することなく、百四十五円が発泡酒の価格だと思っています。
「税収が増えるわけではないのに、なぜ今、総額表示なのか。政府の別の意図を感じます」と語るのは手芸品店経営の堀内勝彦さん(49)。別の意図とは、消費税を払う「痛み」を見えなくさせて、税率引き上げを図るという意図です。
谷垣禎一財務相は「消費税率の引き上げにつなげるといった意図はない」(十二日、参院本会議)と疑念を否定します。
しかし、かつて大型間接税導入が国会で議論されたとき、中曽根首相(当時、一九八五年二月衆院予算委)は「うまいやり方というものは、羊が鳴かないようにして(毛を)むしることだ」と税の極意を説明しています。
消費税を隠す総額表示。財務相がいくら疑念を否定しようと、「痛み」をマヒさせ、税率アップを図る中曽根流の“極意”が透けて見えます。
四月からの免税点引き下げで新たな課税業者になる前出の茶・菓子店。これまでは消費者から取ってこなかった消費税を取らざるをえなくなりました。「お客さんが来なくなるんじゃないかと心配なんです」と経営者の女性(55)は語ります。
中小業者の負担を軽減するために、現行売上高三千万円以下の業者の納税義務を免除するのが、消費税の免税点制度です。「消費税の信頼を向上させる」(政府税調)ことを名目に、四月から免税点が、一千万円に引き下げられます。
百三十六万業者が免税点引き下げの対象になり、その負担増額は、約四千四十億円になります。この新たな負担を商品価格に転嫁すれば、消費者の負担につながり、転嫁できなければ、業者が負担せざるをえません。
大手スーパーのイオンはこのほど、消費税分に相当する5%程度の値下げを発表しました。総額表示による「割高感」を緩和する意向です。
このように大手業者は、コスト削減や仕入れ価格の抑制で、転嫁された消費税分を値下げしても、利益が確保できます。その一方で、中小業者は、消費税を価格に転嫁すれば、厳しい価格競争にさらされ、転嫁できなければ、身銭を切って消費税を負担するという厳しい立場に立たされることになります。(図参照)
消費税を払う「痛み」をマヒさせたうえで、政府がもくろんでいるのは、消費税率のアップです。
最近、政府、与党、民主党の幹部から、消費税率引き上げをねらう発言が相次いでいます。(別項語録参照)
東京都内の商店街で八百屋を経営する女性(60)は語ります。「従業員に給料を払えば、生活費なんてなくなるよ。ここからさらに税金を搾り取って、それを、軍事費やムダづかいに使うことに本当に腹が立つ。金持ちとか大企業とかもっと税金を取るべきところはあるはずだし、税金は庶民のために使うべきだよ」
日本共産党は、庶民と中小業者に痛みを押し付け、消費税増税への道を開く、総額表示の実施や免税点引き下げ、簡易課税の適用上限の引き下げに反対してきました。
消費税は国民の暮らしと中小業者の営業を破壊する天下の悪税です。日本共産党は、消費税の廃止を一貫して求めています。
大企業を優遇する政治をあらため、公共事業や軍事費などのムダを削って財源を確保し、それを、国民の暮らしや社会保障のために使うべきです。そうすれば、消費税に頼らなくても、安心できる社会保障制度を実現することは可能です。
消費税の総額表示義務付けに伴い、小売業者が商品納入業者に対して仕入れ価格の引き下げを強要する恐れがあるとして行った実態調査の結果を、公正取引委員会が十九日公表しました。納入業者の17・5%が小売業者から仕入れ価格の値下げを要請されたと回答しています。
税抜き価格が主流のスーパー業界では、総額表示によって商品を値上げしたとの印象を避けるために、納入業者にたいして仕入れ価格の引き下げを強要する恐れが指摘されていますが、これを裏付けたものです。
電通消費者研究センターが二月、首都圏の消費者にたいし実施した調査によると、総額表示が与える印象(複数回答)は、「これまでより便利になる」が54・1%を占めました。
その反面で、「便乗値上げがありそうで不安」(22・4%)、「値上がりしたような印象がある」(18・0%)、「将来の税率アップの布石になるのではと不安」(17・1%)といった総額表示に対する不安・不信を訴える回答も目立っています。
●「総理は、任期中は消費税を引き上げないといっているが、消費税の議論はおおいに結構と発言している」(谷垣禎一財務相、12日、参院本会議)
●「(消費税の2ケタ増税を打ち出した)政府税調の議論を踏まえ、(消費税を含む税制の抜本的改革を盛り込んだ)与党税制改正大綱を踏まえて議論を進めたい」(谷垣禎一財務相、18日、参院財政金融委員会)
●「消費税のことも含めて(年金の)財源を考えていきたい」(自民党・額賀福志郎政調会長、21日、NHKの討論番組で)
●「消費税については、年金だけでなく、介護、医療など社会保障全体の費用をどうまかなっていくのかという中で、議論しなければいけない」(公明党・北側一雄政調会長、21日、NHKの討論番組で)
●「(年金の)保険料を上げるのではなく、消費税ですべての人に負担してもらう」(民主党・枝野幸男政調会長、21日、NHKの討論番組で)
●民主党は12日、新公的年金制度の創設と、現行の消費税に上乗せする「年金目的消費税」の導入を柱とする年金「改革」法案の骨格をまとめています。