2004年3月27日(土)「しんぶん赤旗」
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第二次大戦中に中国から強制連行され、新潟港で強制労働させられたとして、中国人の原告十二人(元労働者十人と、一人亡くなりその遺族二人)が国と企業・リンコーコーポレーションに損害賠償と謝罪広告を求めていた裁判の判決が、二十六日新潟地裁でありました。片野悟好裁判長は、十一人の元労働者一人あたり八百万円の損害賠償を命じました。
戦時中、新潟港では九百一人が強制連行・労働させられ、劣悪な待遇のもと百五十九人が死亡。審理では原告八人が証言し、強制連行事件では初めての現場検証も行われました。
原告側は強制連行・労働について、国が同社と共同して計画、実行した不法行為と主張。これに対し、国・企業側は「除斥期間」(二十年が過ぎると損害賠償請求権が消滅するというもの)などにより、賠償請求権は消滅したと主張しました。判決は除斥期間を排除する主張は認めないものの、強制連行・労働を国と企業の共同不法行為と断罪しました。また「日常的な暴力」など国と企業の安全配慮義務違反を認めました。
明治憲法下では公権力の行使に対する民事責任は問われないとする「国家無答責」について、「国に対して民事責任を追及できないとする解釈・運用は、著しく正義・公平に反する」と原告の主張を認める画期的判決となりました。
判決後、原告の王成偉さん(76)らは「心血注いだことが実ってうれしい。中国に戻って仲間に伝えたい」「喜びで胸がいっぱい。歴史の責任にたって勇気ある判決を出してくれてうれしい」と語りました。
強制連行・強制労働の被害に対して、初めて国の責任を認め、国と企業に連帯して賠償責任を負わせた新潟地裁判決は、各地での中国人強制連行訴訟をはじめ、他の戦後補償裁判にも、大きな影響を与える画期的なものです。
これまで国は戦後補償裁判で、戦前の国の不法行為の責任は問えないとする「国家無答責」を主張し、戦争被害の責任を回避してきました。判決は「国家無答責」について「現行法下においては、合理性・正当性を見出し難い」「正義・公正の観点から著しく相当性を欠く」と退けました。
判決はまた、国と企業に「安全配慮義務違反」があると明確に認定。被告側が「消滅時効」を援用することについても、「社会的に許容された限界を著しく逸脱する」として、損害賠償を命じました。
さらに判決は、日中共同声明(一九七二年)によって中国国民の損害賠償請求権が放棄されたとする国側の主張も退けました。この点も他の戦後補償裁判にとって重要な意味を持ちます。
強制連行・強制労働事件をめぐる訴訟で、国側が持ち出した争点がほぼ全面的に退けられ、司法の場で被害者救済の道が開かれたことは重要です。
国と企業は控訴せず、早急に謝罪と損害賠償を行い、問題の全面解決に取り組むべきです。
菊池敏也記者