2004年3月25日(木)「しんぶん赤旗」
三菱の言い分をうのみにしてきたのか――。「整備不良」から一転設計上の欠陥を認めるリコールに発展した三菱製大型車のタイヤ脱落事故。同社の企業責任とともに同社の説明にほんろうされてきた国土交通省の弱腰な対応にあらためて厳しい批判が起きています。遠藤 寿人記者
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同社は、二〇〇二年一月の横浜の母子死傷事故後に、自主回収したハブを調査し微細な亀裂を発見しながら、今月八日まで国交省に報告しませんでした。
二〇〇〇年、内部告発によって発覚した三十年にも及ぶ同社のクレーム・リコール隠しに続く二度目の「虚偽報告」が疑われ同社の「企業倫理」が根本から問われる事態です。
それにもかかわらず国土交通省は、「神奈川県警が書類を押収している」との理由で同社への「立ち入り調査」を見送りました。ほぼ毎年行われているリコール監査も、同じ理由で昨年、実施されていません。監督官庁として考えられないことです。
十八日の参院国土交通委員会で、日本共産党の畑野君枝議員は、「国土交通省が、リコールの命令権や勧告、立ち入り調査権を持っていながら、刑事捜査をしなければ原因究明されないなら、検査制度の見直しが必要」と石原伸晃国交相に迫りました。
横浜の事故直後の〇二年五月には、衆院国土交通委員会で日本共産党の瀬古由起子議員(当時)が同省に三菱への「立ち入り調査」を要求しています。
瀬古氏は、リコールの傾向として設計ミスが増加していること、自動車メーカーは、コスト削減競争や開発期間短縮に明け暮れ「リコールを隠した方がもうかる」という体質があると指摘しました。
当時の洞駿自動車交通局長は「三菱は、社会的ぺナルティーを受け、リコールを隠したら企業存立を危うくし、経済的には引き合わないとの認識が浸透してきている」と擁護しました。
瀬古氏は「(三菱が)ダメージを受けたからいいじゃなく、設計ミスが出ているから国土交通省として、責任を持って車づくりの体質にメスを入れなければだめだ」と姿勢を厳しく批判。
タイヤ脱落問題では「立ち入り調査もせず、メーカーから整備不良と聞いただけで、どうして整備不良と断定できるのか」と追及しました。
洞氏は「立ち入り調査はしていないが、三菱をよんで実態や苦情、過去の事例や構造など細かく調査している」と答弁しました。
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「設計・製造上の欠陥ならこんな走行距離を走れませんよ」。取材のたびに国土交通省リコール対策室は、ハブの構造上の欠陥を打ち消してきました。まるでメーカーの代弁者のように。
一方、〇二年二月、同社はハブの「無償点検・無償交換」措置を発表。ハブ専用ラインを増設し、販売会社へ人員派遣をするなど費用は三十五億円でした。
メーカー責任は否定しながら、万全の体制でリコール同様の「無償」交換する。同省も「過去に例がない対応だ」といいます。三菱側が、道路交通の安全上、放置しておけばいかに危険かを認識していたことを示しています。
三カ月限定の「無償」交換に踏み切ったのは、「有償」では回収率が低かったからです。横浜の母子死傷事故後もハブ破損事故は十七件起きています。にもかかわらずなぜリコールさせなかったのか…。ここでも国交省の弱腰ぶりが。
現在までハブ破損は、三菱以外のメーカーから報告されていません。これは、「過積載」「整備不良」「使用条件」など、使用者側の要因ではないことを示しています。
ハブの基準はどうなのか。道路運送車両法の保安基準でハブを含む走行装置は「堅ろうで安全な運行を確保できるもの」と規定されているだけです。詳細な規定はありません。同省は「コストの問題があってすべての車を『戦車』のように頑丈につくれとはいえない」といいます。
新車時の「型式認証」さえ通れば、メーカーの「さじ加減」で設計変更をしても「構造」が大きく変更されない限り届け出の義務もありません。
製造物責任法(PL法)に詳しい谷合周三弁護士は「三菱は、三十年にも及ぶクレーム隠しを反省し、法令順守体制を社内に整えるとして、株主代表訴訟で和解した。にもかかわらず、このようなことを繰り返したのは信じられない。事故情報は、原因が調査中でも、メーカーは公開すべきだ。現在の体制では、メーカーが情報を握ったままで、それがいかようにも加工され、国交省がそれをうのみにする危険がある」と指摘しています。